書評

密偵ファルコシリーズ リンゼイ・ディヴィス ローマ人の物語

クソ暑い島では脳味噌が煮えてムズイことを考えたくなくなる。当然、人文書は積読となり、時事問題、社会問題は読みかけで眠くなる。なもんで小説読み率が上がる。しかもエンタティメントな。暑い夜長を娯楽お気楽小説読みでしのぐわけだ。 仕事でも小説の類…

『故郷』チェーザレ・パヴェーゼ ネオリアリズモとファシズム

文庫本が湿気でぶよぶよしたあいかわらずの梅雨の島。今度は『故郷』を読了。 先日の『美しい夏』とは違った印象の作品だったな。故郷 (岩波文庫)作者: パヴェーゼ,河島英昭出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2003/06/14メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 3…

『美しい夏』チェーザレ・パヴェーゼ 一瞬の夏

いやらしい梅雨のあの湿気に満ちた大気の数日。わたくしは締切で乾かない絵の具に、湿ってぶよぶよとした紙にむかつきながら仕事をしていたのだが、それも昨日ようやく終り、仕事を発送した、その日の空は、久しぶりの陽光に満ち、南の空には大きな入道雲が…

『NANA』矢沢あい 集英社的正統派少女漫画 恋愛における既視感

さまざまな方面から(はてなも含めて)「読め読め」といわれ続けた漫画の一つがこれ。昨年来の最悪の下流病がちょっとだけ治ったので、現状出ている17巻まで読んだ。しかし売れ筋系に関しては島の本屋さんに貢献する為にそこで買うと決めているので、なかな…

『ミノタウロス』佐藤亜紀

幼い頃、母はよく美術展につれて行ってくれた。西洋絵画の大家、ドラクロワ、パウル・クレー、ピカソ、セザンヌ、ルオー辺りはかすかに記憶に残っている。そのなかで特に印象深かったのがピカソのヴォラールコレクションの版画のシリーズである。ことにゲル…

『ビルマの日々』ジョージ・オーウェル

で、島休日は上記のごとき過ごしたが、島の先週末は宴会だった。晴れると宴会。これ島の常識。 大工の島人と陶芸家の京都人、Yさんご夫婦の宴会に呼ばれたんだな。 友人のEさんにピックアップしてもらって出掛けた。まぁ島の宴会はいつものごとく野外で楽し…

『百年の孤独』ガルシア・マルケス 熱帯のsaga

島は梅雨に入った。いよいよもって湿気がすごく、書籍もしっとりとして、パンに黴、衣料はつねに、ねとんとしている。そんな島の梅雨。ガルシア・マルケスを読み続けている。百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)作者: ガブリエルガルシア=マルケス,Gabrie…

島尾ミホ『海辺の生と死』『祭り裏』ミホの目

島尾ミホの訃報に際して、finalventさんがブログで書評を書いていらした。 ○極東ブログ http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2007/03/post_593f.html [書評]海辺の生と死(島尾ミホ) 以来、島尾一家の本をBK1やら図書館やらで借りてきて読んで…

英雄譚と『オウエンのための祈りを』/ヴァージニア工科大の事件

とりあえず読破。オウエンのために祈りを〈上〉 (新潮文庫)作者: ジョンアーヴィング,John Irving,中野圭二出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2006/09メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 18回この商品を含むブログ (31件) を見るオウエンのために祈りを〈下〉 …

『死の棘』島尾敏雄 夫婦の「受難」の道行き

痛い腹を抱えて眠れぬ夜に読み終えた。死の棘 (新潮文庫)作者: 島尾敏雄出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1981/01/27メディア: 文庫購入: 7人 クリック: 82回この商品を含むブログ (128件) を見る 思いやりの深かった妻が、夫の「情事」のために突然神経に異…

『与論島移住史ーユンヌの砂』旅人となった島人の物語

わたしには故郷があるようでない。生まれたのは京都だがそこで育ったわけではない。一番長く住んだのは横浜だが新興住宅地で変貌激しくいわゆる「故郷」という原風景になりえない。父の仕事の都合で転勤も多く、横浜に住む前は、高槻、静岡のミカンの産地三…

『グロテスク』桐野夏生 持たざる人間の呪詛

島はトロピカ度低いどころか今日は嵐だった。重く垂れ込めた雲が海を覆い、風に煽られた波がリーフに砕け散って津軽度が3くらい。 そんな気分重そうな日には、重い本でも読もうかと、ついに積読だったこれを手にする。グロテスク 上 (文春文庫)作者: 桐野夏…

『癒しの島、沖縄の真実』琉球日報のないちゃーの記者か・・・なるほど。な本。

飛行機の中で読む本としてこんなのを購入。癒しの島、沖縄の真実 [ソフトバンク新書]作者: 野里洋出版社/メーカー: ソフトバンク クリエイティブ発売日: 2007/02/16メディア: 新書購入: 4人 クリック: 27回この商品を含むブログ (11件) を見るフランスよ、ど…

積読本と書評積読本

何故か忙しい。締め切りだからだ。 ミクミクと師匠のトコを巡回する以外あまりぱそぱそもしてない。このところ購入したのと読破した本読破したけど書評書いてない本くもの巣の小道―パルチザンあるいは落伍者たちをめぐる寓話 (ちくま文庫)作者: イタロカルヴ…

『講座 日本のキリスト教芸術 2美術・建築』

入院しているときに友人が土産にくれた本をおりを見つけては読んでいた。 ↓これ。講座 日本のキリスト教芸術〈2〉美術・建築 (講座日本のキリスト教芸術 2)作者: 神田健次出版社/メーカー: 日本キリスト教団出版局発売日: 2006/10メディア: 単行本 クリック:…

というより今読んでる本『北回帰線』

ええと、先日ヘルマン・ヘッセの『知と愛』を読んでみたけど、主人公の秩序と対比される解放的な、本能的な性分の気まぐれな藝術家という設定がどーもなんだかな?と思ったのであるが、なーんとなく家にすっころがっていたヘンリー・ミラーの『北回帰線』を…

『知と愛』自分探し男一代記

友人に書評ブログと言われておるが、療養中でお外もロクにいけないわたくし的には、本読むのと仕事(絵)以外やることない。本日読み終えたのは、「教養小説」の分野に入るのか?な『知と愛』知と愛 (新潮文庫)作者: ヘッセ,高橋健二出版社/メーカー: 新潮社…

『奇跡の大河』J・G・バラード 廃墟親父の熱帯幻想

トーマス・マンの『魔の山』の教養毒気に当てられて、口直しに家にすっころがっていた、バラードの『奇跡の大河』を読む。奇跡の大河 (新潮文庫)作者: J.G.バラード,浅倉久志出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1988/08メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 8回こ…

『魔の山』読了 こいつはスラップスティックか?

なんとかこの激しく人を疲労させる魔の山を登りきったわけだが。魔の山 下 (新潮文庫 マ 1-3)作者: トーマス・マン,高橋義孝出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1969/03/25メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 9回この商品を含むブログ (32件) を見るasin:410202…

『蟲師』儚く哀しい異形世界

昨日は病院帰りの自分土産に漫画を買おうと思って買ったよ。蟲師 (1) アフタヌーンKC (255)作者: 漆原友紀出版社/メーカー: 講談社発売日: 2000/11/20メディア: コミック購入: 3人 クリック: 124回この商品を含むブログ (390件) を見る以前、紹介されて読み…

「魔の山」教養小説にゃぁムカつく

なんというか読み手の鍛錬を目的にしているとしか思えんくらいへ理屈の洪水になりつつある『魔の山』中盤。 人文学者のイタリア人セテムブリーニとユダヤ的伝統の家に生まれながらにしてイエズス会士のなりそこないのナフタ氏が議論を始めてしまったので主人…

『魔の山』トーマス・マン サナトリウムの蛸壺文学・中間報告

長いね。『魔の山』長編だね。まだ半分までしか読んでないよ。魔の山(上) (新潮文庫)作者: トーマス・マン,高橋義孝出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1969/02/25メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 33回この商品を含むブログ (51件) を見る魔の山 下 (新潮文…

『マーリー』ジョン・グローガン 世界一のバカ犬話

ペットを飼っている人のペット話ほど馬鹿げて見えるものはない。犬を飼っている人の犬話とか猫を飼っている人の猫話とか、まぁ退屈極まりないし、身びいきが酷くてアホかと思う。犬について本をいくつか書いているある動物学者は、犬びいきの性か「猫を飼っ…

というか「ドイツ教養小説」とやらに挑戦してみんとす

「教養小説」(修養文学というか)とやらに教養がないことに気づいたのでなんか読んでみようと思って犬散歩がてら本屋にいった。ディケンズも夏目も下村も読んでいるんで(けど、ほとんど忘れてるけどね)それ以外の・・と探したらヘッセのもロマン・ロラン…

『ポーの一族』萩尾望都 永遠の時間

先日は、モトさんの『トーマの心臓』に言及した。友人が早速それを読んでトーマについて「ゲーテの『若きウェルテルの悩み』を『ヴィルヘルムマイスター』にした感じ〜」と指摘してくれたが、ゲーテなんぞ「イタリア紀行」かなんかでシシリアのバゲリアにあ…

『トーマの心臓』萩尾望都 こりゃキリスト教文学だよな

ネットな友人がこの漫画読んで書評を某所に書いていた。トーマの心臓 (小学館文庫)作者: 萩尾望都出版社/メーカー: 小学館発売日: 1995/08/01メディア: 文庫購入: 21人 クリック: 237回この商品を含むブログ (222件) を見る懐かしい・・・思わず書棚から探し…

『医療崩壊』小松秀樹

横文字に弱い私は「インフォームド・コンセント」って言葉はなかなか覚えられない。どうも頭の中でコンセントの数を増やしたりするリフォーム??などと建築用語っぽい方向に連想が行くので、それが医療用語だと馬鹿頭脳が認識しないんだな。 でもこの本読ん…

『ぼくのともだち』ボーヴ・80年前のニート小説

同じ白水社から出ている『きみのいもうと』の前作ぼくのともだち作者: エマニュエル・ボーヴ,渋谷豊出版社/メーカー: 白水社発売日: 2005/11/15メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 12回この商品を含むブログ (35件) を見るボーブは1800年代末期に生まれた…

『下流志向』内田樹

内田樹が「なんだかbk1ですごい売れてるけど。アマゾンでは54位ぐらいなのにbk1ではなんで2位なんだ?」とか疑問に思っていた本。まぁ流行っぽい本を買う人はその過半数を超える割合でアマゾンの「一ヵ月後に届く」が我慢できないんだと思う。わたくしみたい…

『クワトロ・ラガッツィ』と殉教者達や遠藤文学のとりとめもなきこと

『クワトロ・ラガッツィ』を読み終えて、気分的に退屈。面白い本読んだあとって寂寥感感じますね。 若桑みどりが自分で言っているように、彼女は歴史家ではない。単純に「天正少年使節萌え」が嵩じて、アレを書かせたのだが、その使節についての記述よりも周…