『NANA』矢沢あい 集英社的正統派少女漫画 恋愛における既視感

さまざまな方面から(はてなも含めて)「読め読め」といわれ続けた漫画の一つがこれ。昨年来の最悪の下流病がちょっとだけ治ったので、現状出ている17巻まで読んだ。しかし売れ筋系に関しては島の本屋さんに貢献する為にそこで買うと決めているので、なかなか全巻揃わず。つまり島の本屋はアマゾン以上に注文してからが長い。ゆえに、やっと17巻まで読めたのである。

NANA (1)

NANA (1)

なんちゅーか王道の少女漫画だな。
実は読みはじめてすぐの印象は「なんじゃ?このレディースコミックな絵柄は?」であった。次が「今どき。ピストルズかよ?!」「世の中ではリバイバルされてんのか?チェ・ゲバラみたいな扱いでシド人気とか???田舎もんに成り下がったかわしは?田舎もんだけど。。。。」という気分でしたよ。ピストルズヴィヴィアン・ウエストウッドってのもベタだし。そもそも「恋人はロッカー」って、竹熊健太郎相原コージの「さるまん」の少女漫画についての回でも指摘されているほどベタな設定だぞ。恥ずかしくないか?!

・・・・そういうわけで微妙に引きながら読んでいたわけですが、絵柄は回を追うごとに変わっていき、寧ろ自分の過ぎた青春体験がそこにある感じで、懐かしさを覚えつつ次第にはまってしまいましたよ。魔王の罠だな。

はてな界隈をウロウロしていると、モテネタが多い。
哲学集団G★RDIASの哲人kanjinaiさんですら取り上げてしまうネタだ。→http://d.hatena.ne.jp/gordias/20070609/1181322127
「恋愛」「モテ・非モテ」は青春まっただ中ではかなり重要なファクターであったので、はてなーな人々がもんもんと悩み続けるのも判るが、わたくし的にはもうそれは今は昔の物語になってしまったかも。と『NANA』を読んでいて思った。未だ無性な寂しさはあるが、しかし『NANA』の物語を読む己の視点の距離が、そういう現場感覚を持てなくなっていることに気付いたというか、寧ろ「よみがえる想い出」みたいなものになっているなと。つまり、既視感的な様々な恋愛がそこにあるという物語ではあった。

この手の王道の恋愛モノ、中学高校時代はまったく興味を持てなかった。女子校だった性もあり、リアルさがなかった。しかし大学に入りそれなりの経験を経て恋愛モノが読めるようになった。その時の漫画を読む視点はリアルタイムな共感と希望だったと思う。

この漫画の登場人物はみんなモテ体質だ。まぁありえないぐらい美男美女が、いい男いい女が、ごにょごにょとしている。二人の「NANA」のうちの「ナナ」は、素直ではないぶん恋愛ベタだがなぜかいい男に恵まれている。もう一人の奈々は素直過ぎて墓穴を掘る超恋愛体質で男がころころ変わる。ひらたくいうと「エロいくせにひねているので不幸体質」「ヤリマン女が妊娠して男ゲット←今ここ」それに加えて「仕事と男の狭間で、愛から遠ざけられてしまう薄幸な美女」とか「男が苦手で構え過ぎる女」とか「いけいけだが一途なエロい女」「すでにして安定期に入りおばさん化してる女」とか、なんだか色々な状況の女が出て来るので、自分的にその手の体験有りかも〜な素材が沢山出て来る。

今となっては、それらの女性達が経験し置かれた環境で悩む、そのさまざまな光景が「通って来た道」のどれかに当てはまるなぁ。とは思うが、しかしそれらは全て過去のモノとなってしまったなと、ちょい寂しくもある。

この漫画は、私にとっては懐かしのあの感覚。という印象。
男に対し妙に緊張する美雨がその気になってるヤスを制止するあれとか、あったなそんなこと。。。。、妙に重いその空気が嫌なんだよね。あるいは彰司に裏切られて強がりながらも激しく傷つく奈々のあの感覚。ああいう時って背筋に氷ぶち込まれた気持になるんだよね。とか、失恋後の自暴自棄から成り行きでまぁたいして好きでもないが優しくしてくれた男の手に乗ってしまう。(つっても時代的にこのNANA的な、すぐやっちゃう時代じゃなかったんでちゃんと「おつきあい」からはじまりましたが)あるいはヤスのような坊さん的境地なんてのも体験した。

・・・・ああ、そういう青春だったなぁ。

そういえばわたしの青春期はパンク、そしてニューウェイブというブリティッシュロックの時代だった。よけいに懐かしい感じはする。それと、都心のおされなバーとかで友人達とだらくさしてたのも、なんとなく思いだすよ。

更に加えて主人公達は芸能世界に生きる人々でもあり、マスメディアに翻弄され、その愛すらもままならない。プライベートに踏み込まれズタズタにされていく彼らのあの立場、メディアの暴力、デマで歪められる像、企業戦略。この手の社会によって関係者が傷つく世界というのも知っている。その恐怖。「有名税」ということで守られない人としての生活。そのことへの怒り。これなんかもかなり共感した。昔からあまり見る習慣のなかったテレビを極端に嫌いになったのはその所為もあるかも。


・・・・というわけで、ばばぁが青春回顧する漫画という感じでしたね。自分的には。
まっただ中の人にとってはリアルなんだろうな。これ。
漫画ネタで盛り上がる年齢な中高生は「どの男が好み?」とかそういう話しをしているかも。いいなぁ。そういうのも。
わたくしはヤスかタクミ。子供は嫌いなんで。おばはんだから。

◆◆
ところで・・・この漫画で思ったんだが、昨今はセックスのハードルがかなり低いんだな。私の青春時代は漫画世界はキスが盛り上がりの重要なファクターだったと思う。

最近のニュースで「少女コミック」が有害図書あつかいにされただかそんなのを目にしたが、なんでもAV並のエロさ具合だそうだ。「少女コミック」というと萩尾望都竹宮惠子、倉田江美、吉田秋美、大島弓子・・というようなちょいと文学臭すら漂うような漫画を連載していた気がするんだけど。。。いつの間にそんなになってしまったんだ。小学館よ!

ローマ・カトリックの御大バチカン様は「婚前交渉などもっての他」と主張するが、流石にそれは時代遅れだろうと思っていた私でも「少女コミック」がエロ雑誌扱いという話。あるいは出会ってからセックスへ移行するその速度が当たり前のようにするっと書かれていたりする『NANA』なんか読むと、まぁ「口煩いジジイ機関の遠ぼえは必要かもしれん」とは思ったり。

まぁ『NANA』はエロが主体ではないし、現代という時代がそうであり、それがリアルというならばそれはそれ。ストーリーはあくまでも彼らの人間関係だったりするし。しかし少女コミックの問題はちょっと考えてしまう。
セックスによっておもろい漫画が駆逐されてしまうってのは困る。しかも少女コミックのターゲット層は小学生とか、中学生らしい。ょぅι゛ょ・・いや少女がいきなりディープなエロ読んでるって光景、なんか嫌じゃないか?エロ読みたい少女はこっそりオヤジや兄貴の本棚漁るとかにして欲しいものです。あるいは「少女××」ではなくレディスコミックとかそっち系で充分じゃないか。
怖い倫理おばはん団体とかに「少女コミック」廃刊にされたらちょっと泣くかも。