密偵ファルコシリーズ リンゼイ・ディヴィス ローマ人の物語

クソ暑い島では脳味噌が煮えてムズイことを考えたくなくなる。当然、人文書積読となり、時事問題、社会問題は読みかけで眠くなる。なもんで小説読み率が上がる。しかもエンタティメントな。暑い夜長を娯楽お気楽小説読みでしのぐわけだ。
仕事でも小説の類が多い。なんせ連載小説は当たり前だがしり切れトンボで、単行本や文庫の仕事はゲラ状態が災いして、お気軽に読み進めるという感じでもない。それでも入り込むとゲラが足元に散らばり、とっ散らかった部屋が一掃散らかるんだが。なもんで、書籍状態になった小説読みは一番お気楽ではあるよ。

で、今読んでるのがこのシリーズ。ルンゼイ・ディヴィスの『密偵ファルコ』シリーズ。

密偵ファルコ 白銀の誓い (光文社文庫)

密偵ファルコ 白銀の誓い (光文社文庫)

表紙絵が下手くそな少女漫画っぽいんで、ライトノベルと勘違いされそうで損してると思うが、実はかなり面白い。ナニが面白いかというと、その設定である。
舞台は紀元70年頃のローマ。ウェスパシアヌス帝の時代。主人公はローマ市民で、その仕事は「密偵」。皇帝の命を受けて動く諜報部員でもあり、また自立した私立探偵でもある。ローマの政治機構の一員に組み込まれているわけでもないので、皇帝の命を受けて働く時は契約である。そのため社会的にその地位は保証されているわけでもない。まぁこの設定でなんとなく少女漫画的ではあるんだが、主人公はすこぶる口が悪く、その友人も無頼漢。詰まりハードボイルド的なキャラで少女漫画的なイメージからはほど遠いかも。英国の歴史ミステリー作家というと、中世の修道士が探偵役となった『修道士カドフェル」シリーズのエリス・ピーターズも女性で、英国はこの手の歴史に精通した女性のミステリ作家が多いのか。とにかくローマヲタなら突っ込み入れながら読みたくなるかもな小説に仕上がっている。
ローマでの民衆の生活、宗教行事、経済システム、庶民の食卓の光景から元老院クラスの貴族の生活、建築や、出版物の機構、銀行のあり方、インフラの状態、属州の光景などがシリーズごとにテーマとなり、塩野七生の『ローマ人の物語』がまんま「物語」となったようなエンタティメント小説である。

まぁ主人公はローマ市民でローマ人であることを大変に誇りに思っているので、それ以外はそこはかとなく屑扱い的なスタンスも塩野さん的ではあるが、しょせん現代小説。どこまでが「ローマ人的」なのかはイマイチ判らないけど、リアルに生きづく人間達がローマを闊歩しているという設定はローマ好きなら、それなりにはまるだろうなという印象です。

紹介した第一作はブリタニア。。。つまりディヴィスの国ブリティッシュが舞台となっている。主人公ファルコはそのブリタニアの鉱山で鉱山奴隷として潜入して鉱山における不正を暴くという設定だ。

青銅の翳り―密偵ファルコ (光文社文庫)

青銅の翳り―密偵ファルコ (光文社文庫)

こちらは第2作。舞台はポンペイ。ベスビオ火山によって街が消失する8年前という設定。ポンペイは大変に栄えた商業都市であり、ローマ人の別荘なんかも多く、この小説では裕福なローマ人の別荘生活っぷりも堪能出来るという按配。
錆色の女神(ヴィーナス)―密偵ファルコ (光文社文庫)

錆色の女神(ヴィーナス)―密偵ファルコ (光文社文庫)

密偵ファルコ 鋼鉄の軍神(マルス) (光文社文庫)

密偵ファルコ 鋼鉄の軍神(マルス) (光文社文庫)

密偵ファルコ 海神(ポセイドン)の黄金 (光文社文庫)

密偵ファルコ 海神(ポセイドン)の黄金 (光文社文庫)

この辺りはかなり前に読んだので内容を忘れたが、3作目は舞台はローマ。当時のローマという街を堪能出来る。4作目はゲルマニア。5作目はまたローマに戻って彫刻の「贋作作り」がテーマになっている。

密偵ファルコ 砂漠の守護神 (光文社文庫)

密偵ファルコ 砂漠の守護神 (光文社文庫)

こちらは舞台は中東の地。旅芸人一座に混じって東方の地へ赴くわけだが、当時のこの地では宗教的祭儀に人間を犠牲に捧げるという習慣があったのか、主人公がおびえているのが笑える。あと、旅のさなかにキリスト教徒の集団に出くわす(主人公はこの新興宗教の一派を毛嫌いしている)が、伝道された時点で殴っておん出てきたってのも笑えた。ローマ文化の及ばぬ世界というのをローマ人から見るとこんなもんか?
新たな旅立ち (光文社文庫)

新たな旅立ち (光文社文庫)

再びローマが舞台。ローマの警察機構の仕組みがよく分る。縄張りとかね。ローマを牛耳るマフィアのボスみたいのが出てくるのだが、こいつがまた警察と癒着していたりと・・・ミステリーにはお約束ネタだよ。
オリーブの真実―密偵ファルコ (光文社文庫)

オリーブの真実―密偵ファルコ (光文社文庫)

舞台は、ヒスパニア。南部スペインが舞台。オリーブ生産者の談合を暴くってな設定であるが、当時のオリーブオイルの価値、流通システムがよく分る。トリビアがまた増える。
密偵ファルコ 水路の連続殺人 (光文社文庫)

密偵ファルコ 水路の連続殺人 (光文社文庫)

ローマといえばその土木技術の水準の高さだが、「ローマ水道」がテーマ。ローマ市に網の目のように巡らされた水道で、女性のバラバラ死体が・・・・ってな事件が起きるわけだ。猟奇的連続殺人。こちらもまたミステリーにはお約束なんだがそれがローマでってのが、イケてますな。
獅子の目覚め (光文社文庫)

獅子の目覚め (光文社文庫)

「尚、カルタゴは滅ぼさねばならない。」という大カトー君のあのカルタゴ。ローマ人に馬鹿にされそこはかとなく憎まれているカルタゴ。偉大なるハンニバル将軍のカルタゴ。そのカルタゴが舞台。剣闘士や猛獣などを引き受ける興行師への疑惑ってのがテーマ。猛獣供給地のカルタゴまで行くことになる。わたくしてきには以前からカダフィハンニバルのイメージが重なって仕方ないんだが、それはこの物語では全然関係ないです。第一、場所違うし。カルタゴは今のチュニジア
密偵ファルコ 聖なる灯を守れ (光文社文庫)

密偵ファルコ 聖なる灯を守れ (光文社文庫)

巫女ネタ。でも萌え要素なし。ウェスタの巫女を巡るミステリーです。当時のローマ人の宗教人達のありようがよく判る。変なタブーが沢山あるんだな。「神官は犬を見ちゃいけない」とかさ。なんで?
亡者を哀れむ詩 密偵ファルコシリーズ (光文社文庫)

亡者を哀れむ詩 密偵ファルコシリーズ (光文社文庫)

ローマの出版ギョーカイネタ。出版業兼銀行業を営むギリシャ人達が出てくるが、ローマ人のギリシャ人に対するある種の偏見とか垣間みれる。当時の出版ギョーカイ銀行ギョーカイのシステムが面白い。
疑惑の王宮建設 (光文社文庫)

疑惑の王宮建設 (光文社文庫)

密偵ファルコ 娘に語る神話 (光文社文庫)

密偵ファルコ 娘に語る神話 (光文社文庫)

上記二つはまだ未読。
今のところ翻訳されて日本で出版されているのは以上であるが、まだまだ続いている。毎年一冊づつ刊行しているようだ。