『L'INCAL-アンカル』ホドロフスキー/メビウス 80年代SF映画に影響を与えた超名作

昨年暮れに驚くべき名作が出版された。偉大なるホドロフスキーメビウスの『アンカル』である。わたくしはこれを青葉台の本屋で発見して卒倒しそうになりましたですよ。世間から大層疎くなっていたのでまさかこんなすばらしいことが世の中で起きていたとは!

なんでも近年、フランスのBD(ベーデー、バンドデシネの略)が注目されておるそうで大層喜ばしいことである。

『アンカル』はこれ↓

メビウスは一昨年来日して話題になってた、本名ジャン・ジローというフランスの漫画家である。1960年代から活躍、西部劇『ブルーべりー』で評判となる。なんせ巧い。色彩が感覚が超美麗。デッサン力ありすぎ。想像力に富んだ創造力の世界が緻密すぎという破格に素晴らしい漫画家なので、漫画先進国の我が国の漫画家にも多大な影響を与えた。大友克洋は初期のマイナーっぽい絵柄が変化するほどの影響受けたし、宮崎駿もかなり影響を受けたらしい。

・・・という伝説の漫画家さんなんであるが、日本ではその作品を見ることがなかなか適わなかった。フランス語の壁が大きかった上に、難解とかマニアックすぎて一部のファンが知ってるだけのマイナー存在だったからだと思う。

メビウスの絵柄は『タンタン』的でもあり、ヘビーメタル誌的な成人漫画、それに加えてカイ・ニールセンやデュラック、もしくはビアズレーなどの欧州の世紀末のイラストレーターに通じるような色彩と画面構成という印象。絵がへたくそな、もしくは大量生産型お約束記号に溢れた漫画(ディズニー系とか萌え系とか)なぞは読みたくないという日本では視覚的に生き辛いマイナー嗜好のわたくしにとっては超ありがたやな存在である。目に超麗しい。

わかんないと思う人は以下のサイトでお勉強してみてください。

メビウス・ラビリンス
http://moebius.exblog.jp/1491491/

なんちゅう美しい絵だ!!!!

で。『L'INCAL』

名作ではあるがはじめて読んだ。有名なので幾つかの絵は知っていたのだが、漫画としてはじめて読んだ。嬉しい。嬉しいけど・・・

・・・難解だった。

二回読んで、まだ理解していない。

お話は、ふとしたことから神秘的な超生命体「アンカル」というシロモノを手にすることになった冴えない駄目探偵がアンカルを巡る闘争に巻き込まれ、しまいには混乱した世界を救う事態になっていくという話。なんじゃそりゃ?

しかも、日本の親切な漫画にだれ切った身には辛いほどに台詞は凝縮され、展開は早く、前提となる世界知識は「そこは推測してね」的に語られてない。

1ページにおける台詞量は尾田栄一郎の『ONE PIECE』に匹敵するが、突っ込みとボケばかりで台詞が埋め尽くされる尾田作品と違って、アンカル漫画の台詞では物語の重要な根幹が次々と語られているんで全然流し読みが出来ん。こんなに気が抜けん漫画は珍しい。

アンカルの世界には様々に敵対する勢力が登場するのだが、その敵対する人たちがあっさりと敵対するのをやめてしまったり・・というか1コマであっさりと味方同士になるなよとか、まぁ物語の前提以前のBD的お約束に慣れないとなかなかつっかかる。解説対談で藤原カムイ氏が「3回読んだ」と言っていたが確かに2回ぐらい読んだだけでは理解できないのが困る。

更に、70年代的神秘主義に彩られていて、あーグノーシス病だよ君たちは、フィリップ・K・ディックもなーんとなくそーだけどよ、みたいなそーいう陰陽なタオイズムというかインド思想のごとき東洋思想折衷というか、シュタイナー的精神的進化論にやられまくった神秘主義的お約束な内容にはちっと吹いたりもするが、当時はこれが真剣に面白かったので、まぁそこは触れないお約束で。(まぁ、なんであの時代の人はこぞってこの手のニューエイジにやられてるんだろうかねとは常々思うんだが)

ちなみにこの漫画、『フィフスエレメント』を見た人はデジャブ観を覚えると思うが、あの映画自体、メビウス先生が噛んでるので当然である。ただ、この漫画の解説ではじめて知ったんだが、この漫画の出版社が映画会社を『パクりだー』と訴えているようで。メビウス先生がメビウス先生を訴えてるみたいなと評論家さんが書いてたが、確かに変な光景である。

フィフス・エレメント [DVD]

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リュック・ベッソンの『フィフス・エレメント』はバンドデシネ的で最高であるよ。是非観るように。

メビウスはこれに先んじて実は『ブレードランナー』の制作に加わらないかと誘いを受けて断ったらしい。これを後に悔やんでいたそうだが、いやもったいない。そのブレードランナーもなんとなくメビウス的世界が炸裂していて、どうもかなり影響を与えたようだ。

ちなみに原作者ホドロフスキーメビウスはあのくそ長いSF小説デューン砂の惑星』の映画化をもくろんでいたらしいんだがシナリオが14時間とか馬鹿みたいな長さになったので諦めたらしい。ああ、もったいない。。。。。