『逆転世界』クリストファー・プリースト 超へんてこな世界が萌える

ツイッターで愛・蔵太氏が『異星人の郷』について呟いていらしたのを読み、なんでも中世のドイツの村に異星人がどうたらという設定で、中世!ムッハー!な私の琴線にいたく触れたので、先日仕事帰りの本屋でそれを探すべく本屋のハヤカワ創元社棚に突進したはいいが、該当書籍は何故か下巻が二冊。仕方がないので年末に出たメビウスセンセの『アンカル』をゲット。それとなんか面白いのないかなぁと探したところで見つけたのがこれ。

逆転世界 (創元SF文庫)

逆転世界 (創元SF文庫)

タイトルがいい。
東京創元社のSF棚は他と比して漢字率が高いんだが、バラードの『時間都市』とか『結晶世界』を髣髴とさせるネーミングと伝統的本格SFの表紙画っぽい感じに思わず反射的に買ってしまった。東京創元社さんは釣りのツボをよく知っているようだ。

で、まぁまさにそのバラードの初期の短編的な変な世界である。J・G・バラードといえば、永遠に上下と左右に広がっていく巨大建造物からなる世界とか、壁に記憶された音の掃除人が出てくる話とか時間を知ることが犯罪になってしまう話とか、増殖する彫刻とか、なんか変なアイディア満載で、わたくしの幻想妄想をいたく刺激する素晴らしい作家である。

バラードはとにかくシュールな世界を書くのが巧かった。フィリップ・K・ディックの『逆回りの世界』とか、時間が突然なくなっていくというホーガンの『時間泥棒』もこれ系か。

わたくしはSFのことは実はよく判らないんで、ハードなSFファンがベーシックに読んでいるお約束のSFはあまり読んだことがない。つまり幻想小説の類の延長として読んでるんだな。なのでこれらの作品がどのような位置にあるのかは知らないんだが、なななななんだこの傑作は!?といたく読了後に興奮してしまいましたよ。

鉄道軌道上を移動している可動式都市「地球市」。この都市の住人達は年齢や年月をマイルで数えている。そしてギルド員以外の多くの市民達外界を知らない完結した閉ざされた世界である。彼らは都市外に出ることは出来ない。

この都市の外にはわずかな村落と荒野が広がっている。都市のギルド員達は「最適線」に追いつくため数マイルずつ都市を北へと移動させるという事業に終始している。都市内では女子の出生率が低く、都市外の原住民から女性を調達してくるのだが原住民にそれが原因で怨まれている。

主人公、ヘルワード・マンは成人を迎えると共に「未来測量ギルド」の一員となるが、彼が外界で目にしたものは・・・。

・・・てな話である。

なんで「逆転」世界なのかを書くとネタバレになるんで書かないが、簡単な数学的知識が発端になった世界なんだなと。そんなのアリなのか?とは思うが、まぁSFなので。ただ逆転に次ぐ逆転というこの物語構成とオチにはしてやられたなと。

しかし、この加藤直之氏の手による表紙イラストもいい。この小説全般的に激しく重苦しい。初期のバラードも同様であったが、とにかく抑えたような筆致で淡々と書いている。そうしたイメージがしっかりマッチしている。SFはこういうべたなイラストがいい。

最近「たったひとつの冴えたやりかた」というのがいいよなどと勧められたんだが、表紙画と中のイラストが少女マンガなので著しく読むのが萎えた。

ビジュアルイメージというのは引きずられるんで、よく考えて欲しいなとは思うが、もし内容と合っているんだったら、たぶん私には全然合わない小説なのかもしれん。SFを扱った少女マンガは好きなんだが、少女マンガ的SFは好きくない。それは漫画にして読ませてくれなどとついつい思うもんで。おなじ理由でラノベも好きではない。勧められて10ページ以上読めたためしがない。何故か私の脳にはそのような欠陥があるのでいつも困る。ある特定のジャンルが楽しめないのは甘いものが駄目とか、寿司が食えないとか、パスタが食えないとか並に損してるような気がする。なんか寂しいような。

で、久しぶりに重苦しいSFを読んでいたく気をよくしたので、今度は同じように漢字が詰まっている東京創元社の『時間封鎖』というのを買ってきた。きっとバラードに釣られるのが読むだろうというマーケッティングの元為されたネーミングだろうからはずさないと思うんだがどうだろうか?

ところでこの『逆転世界』もともとサンリオ文庫で出されていたんだね。サンリオ文庫はなんかしらんが読めば先ず当たる。ハズレがない。日本じゃあまり読まれてないだろーなー、でもほんとはすごいんです、みたいなのを拾ってくるのが得意な変なレーベルだった。これも拾われていたということで、サンリオ文庫ってマジ侮れない。

サンリオ文庫全集』とか出して欲しいぐらいだよ。