堕胎問題は鬼門

カトリック倫理の最大の鬼門「堕胎」
当然教会は「堕胎は罪」と看做している。まぁ受精した瞬間から生命だからああた人殺しでしょ?とかそういうこと以前に、人間が自然に対し傲慢に振舞っていいのか?とかそういう思いまで含まれている。だからクローンなんかも猛反対。臓器移植もどうよ?という感じですが、もっとも身近にあり、もっとも物議をかもすのが「中絶反対」の態度だろう。
これに関して、ま・ここっとさんがポルトガルの最近の国民投票の行く末のリポートをしておられて興味深く読んだ。

■Tant Pis!Tant Mieux!そりゃよござんした。■
http://malicieuse.exblog.jp/6461587/
■罪の意識
http://malicieuse.exblog.jp/6469294/
■罪の意識を断ち切れないまま、ズルズルと

どんなことがあったかというと。これ↓

ポルトガルの左派政権の下で行われる今回の国民投票で堕胎そのものの是非を決める、というのは語弊がある。現在のポルトガルの法律では婦女暴行による妊娠、母胎の生命または健康に危険がある場合、胎児に先天性奇形があった場合の条件付堕胎を認めており、これ以外の堕胎については3年未満の懲役となる。今回の国民投票によってこの3年未満の懲役刑を残すかどうか決めるというのが本当の目的である。

おお。ポルトガルは条件つけて堕胎認めていたんだ。だが「どうしよ〜、出来ちゃった」「ちっ、堕ろせよ」とか「どうしよ〜子供が出来たけど、生活力ない〜」「仕方ない・・・可哀想だけど・・・ごめん」は罪になるんだな。

まぁ、堕胎なんてはっきり言って母体に悪すぎるし、その前に避妊しやがれバカ。とか思ってしまうんだが、カトリックの場合これまた「コンドームはいけましぇん」とか言っちゃうので、どうしろというのだ?と、とにかくこの一件に関してはクソがつくぐらい頑固。現代人からすると「トンでも古臭い」女性達からするなら「リスク背負わせやがって」な嫌な存在である。
まったく、鬼門。
正直、「閨房まで坊主が口出しするなボケ。フグッチョ*1か?おまえら?」と言いたいのではありますし、イタリア人にいたっては当然真面目に守らず、毎回の告解ネタにしてると思う。日本人と違って規則は破るもんだと思ってるとしか思えない国民性だし。

しかしまぁ、カトリック国でも問答無用に堕胎は罪はマルタ島アイルランド(こちらは母体の生命危機の場合は可)だけで、それ以外については

母の精神と健康に危険がある場合の堕胎がポーランド、スペイン、キプロス、ルクサンブルグそしてポルトガルで認められている。以上、キプロス以外はカトリックマジョリティな国ばかりである。以上の条件に加え社会保障や個人的経済を理由に堕胎できるのがフィンランドと大英帝國であり、その他のEU国は条件なく堕胎できる権利が国民にあることになる。

・・だそうで。へぇ。イタリアとフランスも堕胎は出来るのか〜。教会が赦さないだけで世俗の法は許すという感じ。

さて、別にキリスト教圏でない日本でも堕胎は罪深いとされた。水子地蔵なんてのがありましたね。親達ぐらいまでの世代では「生まれなかった子供」を思って供養する習慣があった。中絶した子供だけでなく、死産で生まれてきた子供や、流産した子供に対する負い目を親達が持っていた。だからお地蔵さんにお水をあげるようにといわれたことがある。

どうも中絶問題というとすぐキリスト教が槍玉にあがるけど、どこの文化でもそのような「生まれてこなかった子供」への負い目の文化というのを持っていた。それはあの世とこの世を繋ぐ感覚を所持している文化においては普通のことだったのかもしれない。「受精した卵のどこからが殺人云々」とか、そういうことではなく、授かりものである子供をきちんと受け止められなかった罪。そういう罪深さ、後ろめたさは、我々の文化でも馴染みはあった。

昨日なんとなく昔の漫画を引っ張り出して読んでいた。

ちょびっツ 1 (ヤングマガジンコミックス)

ちょびっツ 1 (ヤングマガジンコミックス)

これ友人に「面白いよ」と勧められて読んだ。
正直、静止画像以外の絵は下手だし、秋葉系の欲望全開杉*2で鼻白むし、心理描写はうわっぺらだし、つまり漫画としての完成度は低いので面白いといいがたいんだけど、設定が面白い。
学習型の人型(しかも美少女)パソコンであるちぃとちぃを拾った主人公の愛の物語といいますか、そのちぃの起動スイッチが「あそこ」にあるので、愛の果てに行き着いた結果、つい「いたしてしまう」とちぃは初期化されて全ての記憶を失ってしまう。という設定。
かなり笑える。
つまりまぁプラトニックな愛を問われているわけですが。
しかしどーも以前読んでもどこかでなんとなくピンと来ないところがあったんだけど、なんでかな?と思っていた。それが今回の手術でよくわかった。
なんせ生殖をするという生物の基本的な器官をとってしまった為に「あーいうことや、こーいうこと」は生殖とは関係なくなる。お子様作りは既にそこにはない。しかも手術したのがトラウマ的になったのか「あーいうことや、こーいうこと」が怖くてなんとなく出来ない。なもんで、これから愛し合うつもりの人とは「怖いから、プラトニックでいてね♪」な気分とか思っていただけにこのお嬢さん型のパソコンとはなんとなくおそろいな気分である。
まぁ、ほんとは手術しても「あーいうことや、こーいうこと」は出来るらしいけどね。気分的にその気にならんの。で、それはなんでかって言うと、子供という目的がなくなってしまったことに起因するのか?とは思う。ま、自分的にはこの辺り、かなり屈折したよなぁと思うけど。そんなこと考えたこともなかったからな。
「ちょびッツ」を読んだ違和感は、つまりそこに「セックスは本来子供を作る行為である」という視点がまったく欠けているところであるのかも。
「ちょびッツ」では「あたし自身を愛してくれる人」=「セックス目的じゃない人ね」な図式がどっかにあるんだけど、それは「愛の果てにあるのはセックスだよな!!!!」的な価値でもあり、物語では「セックスできない=激しくリスク」という感じ。
実は「子供できちゃう」ってのもかつてはリスクであり、安易な性交へのブレーキだったりした。つまりほんとに愛し、共に生活したい人、共に生活共同体を営むつもりの人以外といたしてしまうのは、とってもリスクが伴う恐ろしいことであった。「外で子供作ったわねぇ〜〜〜怨」「パパって不潔〜蔑」「誰の子なんだ!俺の子じゃないだろ!!!怒」という感じの修羅が待っていたり。

だから安易に堕胎できない状態というのはセックス行為へのブレーキがあったりした。しかしこういう社会では社会規格に合わぬ愛は倫理的ではなく、肩身が狭く、特に純粋に愛してたりする人だったりすると悲劇の物語となる。文学なんかが生まれたりしてしまう。

で、「ちょびッツ」ではそういう文化的土壌ってのは既にない気がする。どうも古い感覚引きずってるわたくし的には、その辺りがどーにも共有できてない。だから、ん?と思ったのかも。ちぃの切ない気持ち「あたしだけの人って誰?」とかそういうのは判るんだけどね。ああいうのは普遍の感覚だから。けれど前提の設定のほうは共有できてないかもなぁとつくづく思った。*3

で、元ねたの中絶問題。
非常に難しい。
とんでもない無責任カップルの味方はしたくないし、こう倫理的なことが乱れていると、寧ろそういう「古臭い感覚よ!もう一度!」などと思いたくもなるけど。けれど閨房のことに坊主が顔突っ込んでくるんじゃねぇ。とか思う気持ちもわからなくもないし。

・・・というわけでこのネタはわたくし的に鬼門である。

◆◆
ところで先日、ある神父から受精卵から作られる臓器の話を聞いた。不妊治療の過程で複数の卵が受胎する。親は一人でいいわけなので、受精卵の一つを母体に返し、あとは廃棄するんだそうだ。つまり医師による流産っちゅうか・・。で、それがもったいないってんでその卵には各種臓器の種が存在し、それを製造することすら可能らしい。うへぇ?!SF世界だすなぁ。でもそれってグロテスクでどうにもわたくし的には悪夢世界だ。
しかし医師たちからするなら困っている患者。移植さえ為せれば命が助かる患者の福音となる。命がわずかとされた人にとっては、助かるならなんでもいいからお願いと願うのは自然だろうし。そもそも自分はそういう命に関わる目にあってはいないので、その切実な感覚はわからない。

でも、例えば臓器移植技術の発達の結果起きている臓器売買の現実・・恐ろしい世界が陰で生み出されていくことを考えると、そういう卵を用いた技術はそういう犯罪防止になるのか新たな犯罪を生むのか。判らない。貧しい女性の卵売買とか・・・実験の為の卵の摂取を嫌がった少女の話を書いた萩尾望都の漫画を思い出すなぁ。

当然、カトリック的にはこんなのは赦されない行為なんだけど、単純に赦せない。いや赦す。と言えないような、いろんな意味で難しい問題をはらむ技術だなと思う。

*1:フグッチョ:中世の神学者。夫婦間のあ〜いうことやこ〜いうことの倫理規定を云々した坊さん。アレは罪です。これは罪です。などと細かい規定書を作った人だった。たぶん。今、手元に資料なくて調べられない

*2:ちょびっツにおける秋葉系の欲望:管理人さんはあきらかに音無響子さんだし、そのおしとやかな美人管理人さんがちぃにくれる服ってのが、自分のセーラー服に、ブルマってどうよ?あとメイドさん服とか・・・・

*3:共有できない設定:そういえば愛の形も共有できない。ここでの愛は予定調和型である。メイドさんがご主人様に奉げる裏切りもなく、ひたすら一途な愛。こんな予定調和型の恋愛って激しくつまらんだろ?わたくしなら飽きるね。三ヶ月で捨てる。