ボッティチェッリ

サンドロ・ボッティチェッリというのはかなり普通の人だと思う。だから判りやすい。世の中の流行がプラトン・アカデミーならそれを中世の寓意画の伝統を踏まえて描いて見せたりしたのが、たぶん「ヴィーナスの誕生」とか「春」みたいな絵なんだろう。リッピが人物そのものの庶民的な表情を探求していたとか、マザッチオがローマ的な、光学的実験をしていたとか、そういう方向性ではなく、言語化されたものを絵画に置き換える作業という中世からの伝統的な手法を用いてあの絵が出来上がったんだろうなぁ。だから彼の「ビーナスの誕生」はクリュニーの「一角獣のタペストリー」に通じるものがある。描写が異常に上手くなった国際ゴシック様式って感じだ。
その彼が、サヴォナローラに心酔してから画面は一変して変わっていく。エキセントリックな人々が身をよじり、あたかも実験的な演劇の光景をみるような画像へと変容する。前衛演劇の舞台みたいな。
どうにもこうにもこのエキセントリックな感情は受け入れ難いものの、こちらの方が実はルネッサンス的というか、伝統を無視した独創性があるように思える。これらは既にもう教会の典礼に寄りそうものでもなく、なにか他者の思想を代弁するものでもなく非常に個人的なものであるようだ。
まぁ、流行りもんにすぐ影響受けてしまうサンドロってどうよ?って気もしなくもないが。