普遍的カタルシスの光景 おばちゃんが世界中に感動

英国にBritain's Got Talentというテレビ番組がある。この番組、素人の中からすごい才能の持ち主を発掘するというまぁタイトル通りの番組なのだが、ここに登場したある中年女性が世界中の話題となった。テレビニュースになったらしいので御存知の人もいるだろう。

上記の画面をダブルクリックして、YouTubeに飛んでくださいです。

審査員は三人。その面前に登場した風采のあがらない47歳の女性。いかにも普通のそのへんにいるような絵に描いたようなおばちゃん。審査員の事前の質問でもなんだか勘違い系。いかにも期待していない審査員や、イロモノ系だといささか辟易としている観客が、彼女が歌いはじめるや一転して驚愕の渦に巻き込まれる。あきらかに表情が変化して行った辛口の審査員達は終了後、アメイジングやらインクレディブルなどと連発する体たらくで大絶賛。

このものすごい美声の持ち主が冷ややかだった会場を感動の渦に巻き込んでいく様がYouTubeに紹介されるや、わずか1週間も経たない間で世界中の20、000、000人が試聴、感動した人が大量の書き込みをしている。国籍問わず感動の模様。

実はこの番組以前もポール・ポッツというこれまた大変に風采のあがらないちょいとオタク入ってそうな男性が素晴らしい美声でオペラを歌い、会場を驚かせた。YouTubeのリンクに入ってると思う。鳴かず飛ばずで辛酸を舐め続けた彼の人生がこの番組で一転した。オペラ歌手を目指して挫折していた彼はその後世界ツアーにも出るほどの人気者となった。

まさに埋もれた才能発掘番組なのだが、まったく風采のあがらない気にも留めないような存在が人を驚愕させるような才能を持つという、いかにも漫画的な、物語的な現象がリアルにそこに存在したことは、これは文化や言語の差違を越えた人類普遍のカタルシスの型としてある。

すでに人生半ばを越えて諦めに入りかけるような年齢で、あるいはなにか激しく損してきたような人生でも、なにかを真剣に続けていればいつか日の目を見るかもしれない。そんな希望を他者に与えるようなエピソードでもある。

そういう意味でも元気が出る映像。

売れない三文絵描きで風采のあがらないおばちゃんである私も元気が出たですよ。ボイルさん、有り難う。
(まぁボイルさんみたいな天才じゃないけどな)

◆◆
しかし、このベタなハリウッド的な、創られた物語だったらなんじゃか斜に構えそうなエピソードに世界中の人が反応してるという、そのすこぶる単純な人々の光景になんかわたくし的には一抹の希望というか、不景気とか、不安なニュースとか、そういう中で人がハートウォーミングなモノに出会うと素直に反応する。そういう現象にこれまたベタについ青臭く反応したくなってしまうのであった。

そいやニューヨークで、ニューヨーカーがそういうハートウォーミング光景に弱いのを発見して、なんだか(いい意味で)酸っぱい気持ちになった覚えがある。