『ボーン・コレクター』ジェフリー・ディーヴァー スピードが速すぎるミステリ

コートが必要な季節になりましたね。
そんな寒い本日、挿画の仕事を上げ、その受け渡しと文庫の出版の打ち合わせでT社の編集さんと会っていた。SFやミステリの老舗の出版社だ。
最近『レンズマン』読んで面白かったよという話などで盛り上がる。この手のマニアな分野の話が通じるというのは嬉しいもんです。しかも流石ギョーカイ人だけあって私のような乱読つまみ食い程度の半端な知識ではない。なので本日は寒かったけど、気持ちが暖かくなったのである。
その編集さんに先日読んだアニメ絵がふさわしいんじゃね?な近未来小説『シャングリラ』の話をしていた時、最近は海外の作家も日本のアニメマニアが多くてその手のが増えてきたという話を聞いた。
文章でなくアニメや漫画で読みたい話が小説世界に押し寄せてくると私のような「小説」を読みたいものにとっては寂しい気もする。古典やなにかの引用、ある種の芸術的素養などの片鱗というか、表面的でない知識に裏付けられたような小説は面白いが、先日読んだようなコナン・ドイルを主人公にした表面的な切り張り小説だとやはりつまらない。
それから、展開が速いのが多いよね。という話にもなった。『シャングリラ』もそうだが場面展開が速い。もっとも1940年代のSF『レンズマンシリーズ』も似たようなもんなので、あまり時代性と関係なくエンタテーメントの一つの個性かもしれない。
その速度の速さをもっとも感じる最近の有名な作家というこれだろう。

ボーン・コレクター 上 (文春文庫)

ボーン・コレクター 上 (文春文庫)

ボーン・コレクター 下 (文春文庫)

ボーン・コレクター 下 (文春文庫)

速かった。時間速度が速すぎて、島時間なわたくしとしては「少し生き急ぐのをやめたほうがいいと思います」と犯人や主人公達に提言したくなりました。

ボーン・コレクター』はリンカーン・ライムという市警の元科学捜査官で犯罪学者を主人公にしたシリーズものである。まだ文庫になっていない『ウォッチメイカー』まで7冊訳されている。
リンカーン・ライムは鑑識の天才なのだがある事件が元で頚椎を骨折し、全身麻痺となってしまう。感覚が残り、動かせるのは首から上の頭と片手の薬指のみ。寝たきりとなり、精神的にも打ちのめされ、死を願い続けている。頭とクチだけは達者なので周りのものを罵倒し、介護人はどんどん辞めるし主治医もどんどん代わってしまうというすこぶる我儘な患者である。絶望が限界に達したある時、昔の仕事仲間から仕事の依頼が来る。かくして過去のニューヨークの犯罪史の書籍に登場する「ボーン・コレクター」という連続殺人鬼の足跡をなぞりつつ、市警の捜査員達を嘲笑しながら次から次へと殺人を繰り返すという、猟奇的殺人犯との知恵比べがはじまる。
・・・という話である。

しかし最初の犯罪がはじまってからつかまるまでの時間がすごく短い。最初の被害者がケネディ空港から拉致され殺されその遺体が見つかってから終結までの正確な時間は数えてはいないが、たぶん2日か3日ぐらいの時間である。
その2日間ほどの間に、犯人は、空港でカップルを拉致。男を生き埋めにし、女を監禁殺害。その後ドイツ人女性を拉致監禁。老人男性一人を拉致。殺害の為に某所で作業終了後、ジョギング中の女性を一人拉致、その後空港に降りたった母子を再び拉致監禁している・・・とにかくすごいスピードでマンハッタンを移動し、先に数え上げた人々それぞれに違う殺害手段を講じ、殺しの舞台を作り上げ、証拠を消し、また操作撹乱のための演出をし。。。。という按配で、一日一つぐらいしか仕事をこなせない島時間なわたくしは大変尊敬してしまうような働き者で手際もいい殺人犯である。しかもアジトが判明してからは即座に市警相手に反撃に打って出てくる余力まで残している。こいつのスケジュール表を作ったら手帳が真っ黒になりそうだ。24時間が区切ってある手帳じゃないと駄目だな。
しかしライムのほうもぜんぜん負けていない。消耗度が激しい肉体の癖に、やたら働き者の犯人の先を読み続ける。24時間フルに動き続けるプロセッサなタフな脳みその持ち主というか・・ありえない頭の回転スピードである。彼を助けるスタッフの働きも相当なものだが、それにしても市警の中の人は仕事速すぎ。

このスピードは次回作にも受け継がれている。

コフィン・ダンサー 下 (文春文庫)

コフィン・ダンサー 下 (文春文庫)

ええと下巻しかはてなで出せない。上巻をクリックすると何故かはてな犬シナモンに「メンテしてるですよ。ごめんよ。」と謝られてしまうんで、下巻だけ。

これも2日間ほどの間に暗殺者とライムが大変によく働く小説である。裁判の証人となった飛行機会社の人間を消せという指令のもとに動く暗殺者が今回のライムの敵である。「証人達を守りきれ!」が今回のミッション。
暗殺者はゴルゴ13より優秀なんじゃないか?ってなほどの才能があり、しつこくターゲットに喰らいついてくる。相変わらず短い時間でよくもまぁこんだけ動き回りますなってなぐらい動く。手帖が真っ黒タイプである。更に加えてこっちは巻き込まれて人が殺されすぎ。ターゲットとなった二人を守る為にどんどんと人が殺されていったりするんだが、殺された人の数を数えるとこの警備、大変に割りが合わなさ過ぎであるが、これでいいんだろうか?

これらはおそらくまぁテレビとか映画を意識して作られた話なんじゃないかとは思う。だからこんなにスピードがすごくなっちゃたんだとは思うけど・・・無理ありすぎだ。

しつこいまでに話が進まない、途中、お話をそっちのけで薀蓄たれはじめたり、自己主張していたり、国家や民族論を述べ始めたりしてページ数だけやたら増えてしまう変な小説を書いているドストエフスキー君やビクトル・ユゴー君たちには見習って欲しいもんですな。プルースト君なんかはもう問題外です。

・・・ま。もちょっとゆっくりなお話が読みたいけどね。