『ツバルー地球温暖化に沈む国』 神保哲生 ちっこい島の危機

隣の旦那、ひでさんの書斎はトイレである。三人の男の子を抱える家ではトイレが聖域なのである。ひでさんちの大人トイレの書棚は充実していて興味深い本が並んでいる。昨日お隣に誘われ、おトイレをお借りした時にこの本を発見してお借りした。ちっこい島に住むわたくしとしてはよそのちっこい島に親近感である。たぶんひでさんも同じ事考えてたんだな。今朝読みはじめて、夕刻読み終えてしまいましたよ。小さい島ネタは萌えるからな。

ツバル―地球温暖化に沈む国

ツバル―地球温暖化に沈む国

ツバルという島は地球温暖化問題の象徴になっている。
小さな群島からなるこの国の島は珊瑚の環礁で出来ていて、環礁部分に土地がある。リーフに囲まれた中心が隆起している我が島と違い、土地面積は著しく少ない。どうにも変なトコが好きな私は昔この島の事を知り、一度行ってみたいと思った事がある。道路の両脇が海な島。「それはすごい」などと感動した事がある。調べてみるとフィジーから飛行機に乗っていくそうだとか、その飛行機が1週間に一つしか飛んでないらしいとか、その辺境くささが著しく旅情を煽ったのだが、流石に実現はしなかった。そのわたくし的に魅力を感じた島が沈みそうだというニュースを初めて聞いた時、びっくりした。
地球温暖化問題については様々な見解があり、アル・ゴアみたいに鼻息荒いのもいれば、温暖化を煽っているだけだとか、海面上昇はそれほど深刻ではないとか、賛否が飛び交い、わたくしのごとき者にはよく判らない。ただ判るのは島にいると、珊瑚がどーも元気なくなったとか、昔に比べると潮流が変わったんではあるまいか?とか、どうもお魚が少なくなってる気がするとか、夏の雨の降らない時期ってこんなに長かったかなとか、まぁ島んちゅが「昔はこうじゃなかったんだが」的なぼやきをするのをよく聞くわけだ。ゆえに「温暖化」かどうかは分らないけど、変容がおきているのは確かである。それも急速に。私がはじめて訪れた海と光景が確かに違う。たかだか10年やそこらでこれである。
この書を通じて知ったツバルの人々の危機の声。それは日常生活から知る体感的な危機である。畑に満ちてくる水の恐怖。それは海岸を侵食するのではなく、足元から水がわき出てくるという。珊瑚礁の島固有の現象で、足元下にぼこぼこと穴っぽこがあいている我が島がある日そんなになったらこいつは恐怖だ。私の家は海抜10メートル以上の岩盤に建ってるわけなんだが、(まぁ海面上昇が10メートルなんてなったらそれこそ本土は阿鼻叫喚だと思うが)家の土台の岩の隙間から水がじわじわと満ちてきたりする日常など想像もつかず、しかしツバルに住むある年寄が水で溢れた家の中で起きたら水中に浮かんで寝てたとか、そういうのが日常になりつつあるらしい。
かつてベネチアサンマルコ広場で、夜、ファスタをみていた観光客の足元から水が静かに満ちていくのをみた事がある。小さな水たまりがやがて大きくなり黒々としたその水が音もなく広がっていった。なにかが静かに進行しているような恐怖を覚えた。ツバルでは大潮の時は静かどころか水が噴水のようにあちこちから沸き上がってくるらしい。
ツバルの人々の生活は貧しくシンプルで、自給自足である。その自給が既に出来ない。我が島でも台風後の塩害で酷いことになるんだが、それは風で煽られた潮水が降り掛かるからなのだが、ツバルでは海水そのものが洪水となって畑を侵すらしい。それでは農作物は育たない。

地球温暖化についての海面上昇の問題は本書が書かれた時代から更に進んでいて、海面上昇はない。という判断は今の処「ある」というデータとして認識されつつはあるようだ。この書では平均潮位のからくりと満潮時の潮位との関係について指摘していて面白い。満潮時における潮位はあきらかに上昇しているらしい。そういえば、今年、我が島で台風被害に逢い、島の家から山中湖に引っ越されたSさんは「あきらかに潮位があがっていると思う」「僕が住みはじめた頃にあった砂浜が消失した」とおっしゃっていた。

人口からいえば、沖永良部より少ない国民を「環境難民」としてツバル政府は他国の受け入れ先を探そうとする。しかし最も近く環境的にも適合するオーストラリアは拒絶。ニュージーランドは「労働移民」として受け入れるとの返答。どちらも「難民」問題、移住者問題に慎重である。オーストラリアでは難民受け入れに寛容だった時期があったがそれが国内問題となり、反移民、難民政策を掲げた政治家が当選した。ニュージランドでも「環境難民」の受け入れは拒否。前例が生じればいずれ起きるであろう多くのアジア難民の受け入れ問題が生じるゆえに慎重である。「労働移民」としてなら年間75人づつ受け入れ可だそうだ。ツバルとしては「難民」であるならば働き手にならぬ老人や子供も一緒に送り出すことが出来るが、「移民」の場合は働き手が優先される為国内での働き手がどんどん手薄になってしまうというジレンマがある。「難民」を受け入れるといっても、困難な問題は多いということだ。

こうした事柄を含め本書はツバル寄りとはいえ、比較的客観的にツバルの置かれた状況を書き出しているとはいえる。島に住むものとしてこの小さな島ツバルの困窮が痛いほど判る。温暖化のデータがどうとか、温暖化の問題がどうたらこうたらとか、そういうのはよく判らんが、とにかくまぁツバルの人々が困っていることは現実問題だということで。

ところでツバルのドメインは.tvだそうで。ツバルには電話器そのものがそもそもすごく普及していないそうで、ぱそなど一般人が持ってるわけでもなく、こんなドメインが振り分けられていても純正ツバル人がそれを使用する機会などそもそもない。そういうわけでツバル政府はこのドメインの使用権を売りに出した。.tvというテレビ局なんかが欲しがりそうなドメインは売れた。その売り上げで国連に加入できたとか、国家予算が潤沢になったそうで。先進国の温暖化で国家存亡の危機であるが先進国の文化によって救われたりもしている。そういう小さいツバル。この本でのツバルのあらゆる描写はまるで我が島、与論島のようでもあり、しかしツバルのこの柔軟なしたたかさというのも小ささゆえかもなと思ってみたり。