『夜の帳の中で―吾妻ひでお作品集成』

友人があずまんが・・じゃなくてあづままんがを送ってきた。「うっかり2冊買ったので、一冊やる」だと。普通、8月に出たばかりの本を間違えて買うかね?下流なわたくしへの彼なりの気遣いと、勝手に受け止めておく。有難く読ませていただいたよ。

なんだろうね。ムネペタロリ(但し8歳以下は対象外)な美少女とのエロと鬱テイストな不条理漫画。初出いつかよくわからないけど、諸星大二郎を先取りしているような感性の人だよなぁ。というか鬱々日記でも諸星さんのことを絶賛していたから似たような感性なんだろう。
諸星世界にエロとナンセンスが加わった感じ。それが鬱のフィルターで漉されているのでなんとなく暗い。純文学だと本人が仰っているようだけど、まぁカミュなんかとかグレゴール・ザムザが毒虫になるのとか思い出すよね。ああいう物悲しい感じ。

明るいあの絵柄で暗いってのがこの人の心の闇を再現しているというか、ギャグ漫画家はネタが尽きたら死ぬかシリアスに向かうしかないという言葉があったが、いやね、どんな表現者もネタが尽きたらどういう方向に行くか悩むよね。

そういえば、先日から子宮が悪いなどと色々な人から言われるので、こういう時は鬱になりそうなものだが、入院する羽目になったら何をしようか?昔、風邪こじらせてやばいことになって入院したときは「うる星やつら」を読破したんで、今度はナニを読破しようか?とか考えている自分の真剣みのなさに呆れた。まぁ「どーせ深刻でない」と思っているからなんだけど、他人様が深刻な状況であることのほうが深刻な気持ちになるな。

そういうわけで『失踪日記」で舞台裏を知ってしまった読者としてはこの作品群もなんかそういう深刻な視点で読んでしまう。実は創造に生きる人間は舞台裏を見せちゃいけないのかもしれない。吾妻氏のこの作品群の意図を純粋に受け止めているとは思えないんで、彼の作品には申し訳ない気がした。

・・・にしてもなんというかこの手の暗さ。シュールな暗さは70年代に存在した暗さだよな。『tommy』とか『時計じかけのオレンジ』とか。そういう時代だったよね。