『天球の調べ』

天球の調べ

天球の調べ

フランス革命から6年を経た1795年のロンドン。街中では、王制復活をめざす貴族やその運動を阻止しようとする共和国のスパイが暗躍していた。そんななかで、赤毛の娼婦ばかりを狙った絞殺事件が相次ぐ。内務省の役人ジョナサンは、その手口から、犯人が1年前に愛娘エリーを殺したのと同一人物だと確信し、とり憑かれたように一人調査に没頭していた。その一方で、革命後のフランスからイギリスに入り込んだスパイの監視という本務においても、フランスの天文学者団体を隠れ蓑にして共和国政府との秘密文書がやりとりされているという情報を入手。真相を探るために、天文学者である異父兄のアレグザンダーを利用することを思いつく。ジョナサンは、さっそくフランスからの逃亡貴族で天文学を研究する美しい姉弟の豪邸に彼を差し向けてみるが、どうやら、屋敷に出入りする人物のなかに、共和国政府側のスパイや連続殺人鬼がひそんでいることが判明する…。娼婦殺し、天文学、暗号解読?絢爛たる物語世界が展開する、衒学的サスペンスの逸品。

外はピカピカにトロピカルで、夕方の太陽の傾きで部屋の中まであかるくトロピカルなのだが、読み終った本は、「18世紀末のロンドンを舞台に展開する」「娼婦殺し、天文学、暗号解読?絢爛たる物語世界が展開する、衒学的サスペンスの逸品。」という代物。
もともと家建てる打ち合わせに沖縄で宿を取ったとき、あまりに夜が退屈で「パレットくもじ」とかいうデパートの沖縄では比較的大きいと思われる本屋で購入した本だ。観光に興味がないので本でも読んで暇つぶしをしようと勇みにいさんで本屋に行ったはいいが欲しい本がない。じゃらんとかるるぶとか、沖縄美味しい店!とかまぁそういう本がずらずら並んではいるが、なんというか琴線に触れる本は・・・ない。店がもうおしまいというので電気を消しはじめる。客がいても容赦なく店を閉める沖縄人の根性。その中でこの本だけ異様な空気を発散していたので購入した。ジャケ買いだな。で、まぁ・・沖縄の宿で読むにはあまりにも世界が違いすぎて没頭出来なかった。
その後、家に越してきてこれも持って来たんだが、上記のごときディケンズ?な空気がどうも食指にあわず、投げ出しておいたウンベルト・エーコの「前日島」は環境が手伝って読破したけど、これはどうもいまいち気が乗らないので放置しておいた。しかしニート下流なわたくしは現在本が買えない。なんか新しい本でも読みたい・・と思った時に本棚の四次元からこれが出てきたのでついに読むことにした。
とにかく登場人物が濃い。娘を殺されて犯人を見付けようと執念を燃やすも、左遷させられ、女房子供に逃げられた冴えない英国政府の役人。その義兄で目を悪くして閉じこもるように生活を送る同性愛の天文学者フランス革命の中、悲惨な目に遭った恋人の姿をまだ知られぬ惑星への発見へと託す気の狂った薬中の美青年亡命貴族。その姉にしてブラコンでなおかつどことはなしに淫猥さのある美女。彼女のそばにいつも付き従う口の利けない眉目麗しげな金髪の愛人。女主人に忠誠を誓う醜い風貌の御者。彼女を慕い利用されていると判りつつ忠誠を誓うフランス人天文学者兼医者。屋敷に出入りしている謎の放蕩フランス人神父。みんななんとなく暗くて過去があるような魑魅魍魎のような登場人物だらけである。
18世紀の英国の独特の饐えたような空気の中にこんなに濃厚な登場人物が右往左往している物語というとどんなものか想像つくと思うが、とにかくトロピカルでないことは確かだった。
歴史的な背景は丁度フランスが革命起こして貴族達が亡命し、英国あたりで気勢をあげて打ってでんとする頃で、フランスの方は既にロベスピエールも断頭台の露となり、ブリッソーあたりがぶいぶいいわせていた時代。その政治的な状況絡みでスパイが暗躍し、下町での娼婦殺しと関わってくる。暗号が飛び交い、その暗号には天体の星の等級が使われている・・というまぁ按配で、豪華な道具立てではありますね。歴史好き、ディケンズ的な英国が好きな人向きかも。