幻想文学的夢

ずいぶんと昔になるが、変な夢を見た。
その日はなんとなく寝苦しく、ようやくふっと眠りの谷間に落ちたとき見た夢があまりにも不思議で、真っ暗な部屋のなかで、まだ覚醒していない頭で枕元の明かりを探り、夢の記録をノートに書いた記憶がある。
それはまことに奇妙な夢だった。
その夢はある一人の若い娘が故郷の村に帰ったというところから始まる。
彼女の村は大陸の端に突き出た半島にある小さな村で、大きな町からは車でも一日がかりでようやくたどり着くという過疎の村だった。半島の村を取り巻く海は常に重く垂れ込めた雲で覆われた空の色を反映し、鉛色で、絶えず海鳴りを轟かせている。海はかように常に酷く陰鬱な表情であった。村の外れの曠野の木々は、吹きすさぶ風によって同じ方向に捻じ曲がって生えている。ほとんどの木が葉をもぎ取られ枯れたような状態であった。一年のうちのわずかな夏に雲間から覗く太陽が彼らの生命線であった。
娘の母親はこの村の集落の小さな一軒家に一人で住んでいる。都会に出た娘が久しぶりに帰ってきたとき、母親は彼女が出て行ったときと同じ姿で、暖炉脇のロッキングチェアにすわり、娘を女手一つで育て上げるために始めたレースを編んでいた。
久しぶりにこの村に帰ってきた娘は、やはり同じ村出身の婚約者と村はずれの聖堂で落ち合う約束をしていた。母親に「少し出掛けて来る」と告げると、母は頭も上げずに答えた。
「もう夕暮れ時だから気をお付け。死霊の時刻だからね」
青銅のきしむ門を開けて路に出る。既に日が暮れかかり辺りの風景は青色に染まっていた。街灯だけが鈍い光を放ち、点々と道を照らしている。娘は誰も歩いていないその道の先にある聖堂へと向かった。
村はずれの聖堂はロマネスク風の石造りの大きな建物である。そこは村で亡くなった人の遺体が安置してある廟である。聖堂内の石棺の上には屍蝋と化した村人達が整然と眠っている。この村の風習では遺体は埋葬しない。湿った大気に晒し、聖堂内の石棺の上で蝋と化するまで置いておく、一種の風葬の習慣が残されていた。その聖堂内にある遺体の一つが目を覚ました。もう記憶も無いような遥かな昔に知っていたものの匂いが彼を深い眠りから呼び覚ました。街から帰ってきた娘のかつての恋人だった「それ」は懐かしい匂いに満たされて石棺からおもむろに身を起こす。
待ち合わせた時間に遅れてきた婚約者は不満顔の娘のその背後に、灰色のぼろ布を纏った屍が彼女の姿を求めて近づいてくるのを認めた。婚約者は娘に忠告の声を発する。娘は振り向いて驚きの叫びをあげ、婚約者の腕の中に逃げ込んだ。
「あなたは既にこの世界に生きるものではない。自分の世界に帰るのだ」という婚約者の呪いの声を聞いたとき、初めて「それ」は自分が死者の国の存在であったことを知る。そしてかつて娘の恋人であったそれは、娘の、自分という存在を記憶にすらとどめていないことへの絶望に、その場でぐずぐずと崩れ落ちていった。
暗く、暗雲が垂れ込めた暗い海の海岸を二人は手を繋いで歩き続ける。海には大きな鯨が打上げられ、それもまた蝋と化していた。


・・・・・・・・・・・・と、まぁこういう夢を見たのだ。自分が一切出てこないすこぶる変な夢である。ラブクラフトみたいな幻想夢である。あんまり変なのでディテールまで憶えている。他でも書いたかもしれないけれど、こういう物語をどこかで読んだのだろうか?
だれかこういう物語を知っている人がいたなら教えて欲しい。なんだか偉く気持ちが悪くてたまらんのである。

◆夢の話の続き
上記に書いた変な夢は一回しか見たことがないが、よく見る夢に「でかい屋敷に一人で住んでいる」というものがある。必ずでかい屋敷である。建築物の構造はいつも異なってはいるが共通しているのが、複数の部屋があり、中心の上階(2階か3階)にはすごく大きな応接室がある。その部屋は普段は使用していないのだがなんだか金のかかった調度品が置いてある。一度は喫茶店をそこで開くといいと思うよというアイデアを夢の中で出していたよ。自分は家の外れに部屋を構えているらしくその部屋に行くことはあまりないが、人が来ると案内することもあるらしい。他にも入り組んだ屋根裏とかある。そういう人が沢山住めそうな屋敷なのに何故か一人で住んでいる。寂しいのである。あと、家はどうも崖とか見晴らしのいいところに建っているみたいだ。時々は違う人の家に入り込んでいるときもある。そういう時は必ず日本の伝統的な家屋だ。自分の家は西洋風のモダンなのとか色々。
最近見たのでは端っこの部屋に怪しい伝承が残されていておっかないというものだった。どうもそこで死んだ怨霊がいるらしい。怖いよ。まともな同居人が来ないかな。
なんか、夢判断とかしたら単純な解答が帰ってきそうな夢だな。