島に帰る

前線が通り過ぎたあとの島の冬の夜は静か。なんの音もしない。ひたすら静寂が家を包む。蛍光灯のじじっという音だけが時々「音」が存在することを気付かせる。それだけ。
街は賑やかだった。
電車の音が、東名高速を走る車の音が、時おり混じるサイレンの音が、遙かなむこうから微かに聞こえる。豆腐屋の夕闇に鳴る喇叭も、右翼の街頭車も、警察と暴走族の追っかけっこも島にはない。
あまりに静か過ぎて島犬ミモザは身の置きどころがない。
お姉ちゃん犬カナを置いてきてしまったからか、しきりにあちらこちらを探してはくぅんと鼻を鳴らしている。静か過ぎる島がカナの不在をより感じてしまうのか。

島を取り巻く海、環礁の外側を鯨の親子がぐるぐると泳いでいるそうだ。
明日はミモザを連れて浜に行こう。