ホロコーストを否定した司教が破門を解かれた事件に関して

先週、おフランスのネト友人から教えてもらった、ピオ10世会に関する問題ニュースがやっと地球の反対側に届いたんだが、こんなニュースになって伝わってきた↓

ローマ法王ホロコースト否定の司教破門を撤回
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090127-00000005-cnn-int
エルサレム(CNN) ローマ法王ベネディクト16世は24日、ナチスドイツ時代のユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)を否定する発言をした英国人のリチャード・ウィリアムソン司教らの破門を撤回すると発表した。イスラエルユダヤ人当局者は、これに強い不快感を示している。

破門を撤回されたのは、聖ピオ十世会所属のウィリアムソン司教ら4人。同司教は先日スウェーデンのテレビ局に対し、ナチスドイツの収容所で死亡したユダヤ人は20─30万人にのぼるものの、ガス室で死んだ者はいないなどと主張した。

ユダヤ人側との連絡を担当するキリスト教一致推進評議会のウォルター・カスパー枢機卿は電話でCNNに対し、「(破門撤回は)法王の決定。自分の意見はあるが、法王の決定にコメントしたくない」と述べた。

聖ピオ十世会は1960年代のバチカン改革に反対したルフェーブル大司教によって設立され、非認可の儀式で4人を聖職に任命。この結果88年、当時のローマ法王ヨハネ・パウロ2世が4人を破門した。

カトリック内部の専門家らの多くは、ベネディクト16世が超保守派との不和修復を図る一方、改革を全面的に容認してきたリベラル派との間に溝を作る危険を冒しているとの見方にある。

流石。シス。暗黒面は強靭だな。

・・・という感想を漏らしたくなるが、どーもことの経緯が違うんで、このニュースで鵜呑みにすると間違いを犯してしまう。

ここに書かれたルフェーブル大司教とは、ローマ・カトリック教会が1960年代に開かれた第二バチカン公会議によって、より開明的、改革的になったことに反発した司教で、ピオ10世会とはそれに賛同する聖職者達と共に作った教会内セクトである。公会議の決定に従わない聖職者達が反発して勝手なこと(許可なく聖職者を叙階したりとか)をはじめた為についに時の教皇ヨハネ・パウロ2世がこのルフェーブル派の聖職者達を破門した。
この会の問題は典礼や教義の解釈という点。第二バチカン公会議前に帰ろうとする回帰主義者であり、まぁノスタルジックな人々の集団なのでそれ自体は悪くはないのだが、単に修道会として教皇にでも認可を貰って、教皇直轄の立場で独立してナニゴトかをやっていればよいのだが、教区という色々な人がいる場で活躍し、引っ掻き回すので、教会のシステムを破壊するトンでも困った君という感じ。つまりまぁ、昨日のJRの話でいうなれば、組合を教会保守イデオロギーに染めてしまおうとかしてるようなものだと思ってみればいい。

つまり、本来的には教会内部の教義とかミサのやり方に不満があるみたいなノスタルジック大好きな俗な世界に関係のないところでは本来、害のない人々の集団なのであるが、厄介なことにこういう古臭いものを好む人々というのはえてして俗な思想ではナショナリズムであったりレイシストであったりという傾向がある。

このピオ10世会が欧州で煙たがられていたのは実はそっちのナショナル的な、つまりユダヤ人嫌いとか「田母神」みたいな歴史修正主義をわめく(それもかなり悪質な歴史修正主義だな)等の問題児が集まってきたことにある。そしてやっかいなことにこれは個々の政治信条の問題で教会がどうこう指導できる立場ではない。

欧州の場合、イタリアとかフランスとかスペイン、ポルトガルアイルランドのような国々なんかだとほぼ全員が潜在的カトリックなので、熱心な信者から、「自分は無神論だよ〜」といいながら教会で無意識に十字切ってるのとか、葬式仏教的な日本人とたいして変らないのまでいる。確信的に無神論でいたり他宗教を選んだ人以外は、なんちゃってにカトリックが多い。まぁ日本の事情とそう変らないと思う。

そういうわけで政治的にも右から左が多いんだが、信仰の場における教会内部の件の保守とリベラル、俗な政治における保守とリベラルというのは次元が違うとはいえ、教義が関係するような諸問題、つまりたとえば社会倫理の範囲などでは、教会保守とリベラルで政治の保守、リベラルとそれぞれに合致したりするんで、まぁ概ね教会内の問題で保守な人は政治に保守という傾向は強いだろう。

ことにこのピオ10世会は過激な極右として欧州人に記憶されており警戒されていた。単なる典礼保守ならほかに穏健な集団があり、それらは別に破門されていないし、ノスタルジックな典礼を守っている。

・・という状況があった。

さて、反面、第二バチカン公会議以降、改革的になろうとした教会の聖職者たちの特にリベラルな人々がこれまた勝手にいろいろはじめてしまい、こちらも目に余るような無秩序、混乱、俗化してダメダメすぎるんでは?といったカオスな状況になりはじめていた。ローマ・カトリック教会が提示する教義原則なんか無視して勝手なことを言い出すヤツとか、プロテスタント的な考えを言い出して、それならプロテスタントの信者になったほうがプロテスタントの人も喜ぶと思うよみたいなヤツとか、聖域が俗化して目も当てられませんとか、へんてこな楽器をじゃんじゃん鳴らしてミサがコンサート化してますどころか、へたくそな町内会の音楽会や高校の学園祭か?なミサまで存在して文化破壊このうえない状況。
まことに混沌とした困った状況と化していた。ヨハネ・パウロ二世は実はかなり保守な人でこういうリベラルにも頭を抱えていたのだが、すでにリベラル方向に走った人々は耳を貸しやしない。その点でヨハネ・パウロ二世は教会内政治が実はへたくそだったのかも。

そういうわけで、ヨハネ・パウロ二世の後始末として就任したベネディクト16世という按配である。教会を中道に戻す為に色々やろうとしていた。第二バチカン公会議前に戻そうというのではなく、第二バチカン公会議の時に予測もしてなかった事態の収拾の為の作業を行うことを担わされた教皇である。(こういう人はまぁ理解してもらえないことが多い)

その一つがピオ10世会問題であった。

ルフェーブルが破門された為に、完全にセクト化してしまい、それに賛同する信者達も蛸壺化し、まぁ世間からは「革マル派」的に怪しまれている。本来教会の中だけの問題としては、他の司教のいうことを聞かないとか、勝手に叙階したからということで、教義等に照らせば異端でもなく、つまり反抗的で叙任権を無視した手続きへの懲罰的なものもあったと思われ。終生、破門されるようなことでもない。
また、ピオ10世会は伝統的なもののよさを大切にしたいという素朴な気持ちから集まった信者も多く、そういう古きよきものを排除したわけでもないローマ・カトリックとしては、そうした信者が破門された司教の元にいて宙ぶらりんな状態であることを憂慮していた。

そういうわけで、まぁ教会内にその人々を戻して、古きよき伝統も新しいものも共存できる道を探ろうという気持ちは当然、理にはかなっている。

実際、欧州の友人情報では、どーも、破門は解かれたが、ピオ10世会によって叙階されたとか関わった聖職者の職務停止命令は生きているみたいで、どういうことになってるのかは判らない。

(よくわからんのだが、職務停止ということは人様に説教したりするのも駄目ってことだよね?ということはネオナチ発言するのも駄目ってことか?とか色々考えましたが、そうだとすると馬鹿ネオナチの馬鹿発言への口封じにはなるけど。そんな俗な世界のことまでは考えてなさそう)

とにかくそういう事情から為されたものだが、時期が悪かった。

イスラエルガザ地区の問題が悪化し大変なことになっている。イスラエルは世界から非難を浴び、特に細かい事情が判らない日本ではイスラエルが一方的な悪者になっているんだが、わたくし的にはこの問題はあまりに複雑で、どっちがどうとかいえないぐらいその辺りの事情が実はよくわからない。よく判らないので距離とって眺めていた。(ガザ地区の人可哀想だとか思ったりもするけど、どーしてこう泥沼化してしまうのか)

そんなときに、ネオナチ発言した司教の破門を解かれた。
破門を解かれたのは上記のような教会内事情によるのだが、世俗は政治のことしか考えてないので、教会内事情のことなど知らない。なので「カトリック教会はネオナチの味方か?!」などという短絡的な方向に吹き上がりそうな記事となって報道されてしまったわけだ。

もっともこの時期だからこそやったというなら、ナニ考えてるのかよくわからなくなるし。

ベネディクト16世は外交的な政治がへたくそなのだなとか思ってしまいました。
学者馬鹿な人なので気の毒な印象があります。

しかし、ローマ・カトリックは中国かインド並みに人が多いんで、その内部も複雑怪奇。右から左極右から極左まで、聖域と俗界という二つのベクトルによってより複雑になっているうえに、地域的に異なる問題(欧州とかアメリカとか中国とか南米とかアフリカとか事情も色々・・)が存在したり、修道会とか、信心会、在俗会(ピオ10世会はこのジャンルか?)が数多あり、ローマ・カトリック内にまったく違う思想のセクトが大量にあるみたいなもんで、未だに判らないことがありすぎます。

最近そういうのを考えてもキリがないし疲れるんで、おっさん達に任せてのほほんとしてる方がいいなぁとか思ったりしてしまいます。

◆◆続報
この件に関して、欧州が大混乱。
その様子は以下でどうぞ↓
○■Tant Pis!Tant Mieux!そりゃよござんした。■
http://malicieuse.exblog.jp/10258713/
■身内ではご慶事でも、世間ぢゃ迷惑らしい。 Embarassant!

おフランス在住のま・ここっとさん。先週からこの話を耳に挟んで、色々教えてくれていたのだが、これはまずいことになるかもしれんね・・などと話していたんだが、案の定、彼女の予測通り、すごいことになってしまいました。
その様子を現地から。

◆◆更に追加情報

教皇シス・・ベネディクト16世が謝罪されたとかで、ま・ここっとさんから教えてもらった映像。フランス語なんでわかんないですけど。

http://www.ktotv.com/cms/videos/fiche_video.html?idV=00042995&vl=video_nouveautes

ピオ10世会はこげな按配で欧州では政治信条が右っかわを通り越して過激な右翼な人物が多いというので危険視されている。そのドンみたいな頭にうじがわいたような発言をした司教の破門を解くというのはかなり難しい状態を引き起こしてしまったようです。ベネディクト16世の今回の措置は明らかに失策というしかない状態です。根回しとか、過去発言から危険要素を取り除いておく努力とかしようや。。。。政教分離な発言を徹底することを約束させるとかさ。今後、政治に関わることは口にしませんって、念書取るとか。(司教発言てそのまま公的扱いになるから不注意は赦されないので大変なんだけど)

にしても、欧州では政教分離したがらないような右っ側な息荒いのがいるので、日本とはまた違う光景が広がっておりますね。日本だと左方向に政治的発言するって感じで逆。