『マングローブ―テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実』西岡研介  色々疑り深くなりそうな怖い本

評論界の武闘派、福田和也はなんか怖そうなおじさんで睨まれたくないんですが、このおじさんが「怖い」と書いていたから興味を持ってしまい、買ってしまった本です。

マングローブ―テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実

マングローブ―テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実

電車の中で(嫌がらせ的に)読む本と決めていたので読了に時間が掛かった。なんせガッコと家までの間しか電車に乗らないので、急行だと一駅。しかも一週間に二日の出勤。しかも私鉄なので、JRで読むほどのスリル感がないのがすこぶる残念であった。

内容はまぁ「JR東日本革マル派に乗っ取られていましたよ」って話。

昔、子供の頃、この列車会社は「国鉄」と呼ばれる国の会社であった。国の会社で税金貰ってる公務員なのにしょっちゅうスト(子供心にはサボりだとしか思えなかった)をしていて「変なの」などと思ってはいたが、それでもストになると学校が休みになるので嬉しくて「スト」は良いものだと、まったく違う方向でポジティブなイメージがあった。ストで運休にならないと、国鉄のおじさんたちは情けないなぁなどと思っていた程度の知識しかなかった。

その当時、国労とか動労などという単語が耳にされていたが、なんで組合が二つもあるのか判らずそれも謎の一つであったが、ようやく三十数年ぶりにそれが何故か判ったという按配。

つまりまぁこの本で得られたことは、かつてのストがどんな構造で行われていたのかな?とか、「組合」ってそういうもんなのか、と、そんなトコである。「組合」ってのは、孤独なアーチストには無縁であるからな。

革マル派」についても同様に、怪しい過激な左翼暴力集団ぐらいのイメージしかなかったのだが、これを読んで怪しい過激な左翼暴力集団がどのように怪しくて過激で、左翼で、暴力してるのか、というのの現場応用の事例が少しわかったという感じ。「少し」というのは、この書で描かれている実態が、いくつか憶測的なものもあり、どこまで等身大のものを描いているのかは判らないということもある。

もともと『週刊現代』に連載されていた記事ということもあって、雑誌記事というのははじめに描きたい絵がありそれにあわせて情報を取捨選択していたり、憶測と事実を混同するかのように巧みに描くことも多いということがよくあるからで、センセーショナルな内容になればなるほど眉につばをつけて読むようにはしている。なんせ、架線に石が置かれる事件の多発とか、架線故障とか。組合員がやってるんじゃ?という書かれた疑念は怖すぎですよ。「客の安全を(革マル派に乗っ取られた)組合員が人質にしている」とかって怖い評価。

個人的な印象ではJRは民営化されて親切になったと思うし、サービスも良くなったし、頑張ってるおじさん多い印象だし、そのイメージと合わない。

ただ、この記者はかなり硬派なようで、この書はジャーナリズムギョーカイからの評価が高いようだ。

で、ここに描かれている「革マル派」はまるで「オウム真理教」のごとくであり、オウム事件のときに、オウム真理教というのがこの手の左翼セクトのパロディだなぁと思っていたのだが、ほんとにそっくりだ。

いずれにしてもJRが民営化されるときにどんな問題があったのかとか、「松崎明」という人物がまぁかなり肝な存在だったとか、そういう情報がアバウトに脳に刷り込まれました。

ま、思想に一生懸命なのはいいんですが、やりすぎはよろしくないなとか思いましたです。

で、ついでに平行して『日本の黒い霧』(松本清張)の「下山事件」に関する松本節を読んでいたので、複合して、JRを取り巻く怪しいものってのはいかんともしがたいほどであるというのはなんだろうな?と思いました。同じように怪しくてもよさそうな道路公団ですが、ここまで怪しくない気もします。怪しさの規模が違うというか、漢らしく豪快に怪しいというか。道路公団の怪しさ。。って、そういうのは猪瀬とかが書いてると思うが、みみっちそうです。

新装版 日本の黒い霧 (上) (文春文庫)

新装版 日本の黒い霧 (上) (文春文庫)

松本清張によると、下山事件の背景にあるのはGHQの、つまりアメリカ占領軍内部の対立だそうで。で、占領後、財閥や、旧帝国軍な右翼組織の解体、弱体化の為になんと共産主義勢力を利用したと。つまりメリケンさんは共産主義者を育てたんですな。で、その勢力が国鉄労働組合に入り込んだはいいが今度は力をつけすぎ、日本が共産主義国家になっては困るので、今度は排除方向に・・・というのは現代でも、どこかの中東の国で聞いたような話なんだが。

まぁ、ここ数日はJRにまつわる怖い話を読んでました。

先日、コメ欄でも、井上さんが実際の国鉄でお父様が体験なさった組合のつるし上げの光景を書いてくださいました。組合というのは経営者側と対立する性質なので怖い存在なのは確かですが、それでもJRのは度が超えているようです。『マングローブ』に書かれた組合員への嫌がらせの手法とか、恫喝とか、なにやら陰湿な「いじめ」を髣髴とされるようなやり方から、犯罪レベルまで行くんでは?というものまであったようで、それは大変だっただろうなぁと思います。

組合とかない絵描きは気楽です。でも健やかに下流になりますな。