オバマとレーガン テレビ時代のカリスマ

オバマ演説の波紋はアメリカのみならず各国にも及んでいるようだ。日本のブログをと見ると多くの人が「感動した!」と書いている。
昨日述べたように私はひねくれているので、あの演説で来る返されるリフレイン yes,we can という呼びかけ、民主主義への自負心、「アメリカ」という言葉に喚起される典型的な普遍のイメージ、そういったものへの影のない様に、薄ら寒くなったと書いた。

昨日のエントリのコメントにも書いたが、オバマのこの演説には一神教的な契約の民、あるいはプロテスタント的な神の国へと向かう意思、それを疑うことなく「我、信ず」と口にする。そういういかにもなキリスト教的な思考が透けて見える。オバマはけして宗教右派的な保守性を持った信仰者でもなくどちらかというとリベラルな人だとは思うが、やはりアメリカ的な独特の思考だなとは思う。

他でもちらりと書いたが、民主主義への自負というとフランスもそうで、彼らは歴史の中で自らの血を流し勝ち取った民主制というものを誇りに思っていると感じることはよくある。同じ民主主義を自負するそのフランス。しかしどうもアメリカ的な民主主義への自負とは形が違う。ああいうある種の宗教臭さというかあっけらかんとした民主主義信仰がないというか、もう少しシニカルな印象を受ける。

カトリック教会を政治から押し出すことで勝ち取った民主主義と、プロテスタントの理念を建国理念として掲げたアメリカとの差があるのかもなと・・まぁあの「アメリカ」教的な印象の演説を聴いて思った次第。
フランスはカトリックを否定しながら、教会と対立しながらも、自らの宗教観はカトリックから抜けきらないところがあり、完全な無神論にもなりきれないような闇を抱えていたりもするしで、どこかひねくれているなと思うときがある。それに比べるとアメリカはあっけらかんとプロテスタント的に「信じる」と言い、そして聖書や神の代わりに「アメリカ」がそこに位置したとしても、なにやら態度に変わりがない。

さて、オバマは頭がいい。演説の効果をよく知っている。タイミングもよかった。金融危機で不安を感じていたアメリカ人にとってオバマの力強い演説は救いと感じるだろう。モーゼがイスラエルの民を導いたような光景が重なる。

しかし、この光景はかつてロナルド・レーガンが登場したときの印象に似ていなくもない。自信を失ったアメリカに光を与えた大統領だ。「強いアメリカ」というアメリカ人の自信を取り戻した。彼も演説はうまくテレビというメディアを駆使し勝利した大統領だったと記憶する。オバマとは勿論スタンスは違うが、その言葉の強さ、メディアでの振舞い、そしてカリスマ(押し出しの強さ)という点で、大衆受けはいい。その部分は共通している。

同じようなカリスマというと、小泉首相も受けのいい言葉を語る総理であった。テレビ映えがするといっていいか、レベルはいささか異なるが、良くも悪くもメディア受け、あるいは大衆受けのする総理であった。

我がギョーカイで言うなれば、ヨハネ・パウロ2世がそうである。今の教皇の顔がシスなもんで、比較されて余計に亡き前教皇は「いい人」という印象を与え、ギョーカイ外やマスメディアにも受けがいい。そういえばレーガン同様、彼は俳優だった。しかしその彼が実は宗教信条はすごく保守的であり、バチカンの中央集権化を一層推し進めたのはカトリック外の人はあまり知らないと思う。素晴らしい教皇であったが、見た目の人当たりのよさや慈愛ある振る舞いとは裏腹の、厳しい顔も持ち合わせてはいた。けしてリベラルではない。ゆえに海外ではメディアの批判の餌食になってることもよくあった。

そういうわけで、まぁ、「演説がすごくいい」とか、「感動する言葉を吐く」とかそういうのはあまり信じないようにしているのだ。反面、ああいう薄ら寒いような、自己啓発新興宗教の教祖辺りが使いそうな反復する言い回しをしているからと言って、きもいですぅ〜。などと完全に拒絶するのもこれまた間違いではあるな。

それは表面に過ぎず、どのような政治を行うのかが問われてくるわけで、ゆえに今もってオバマ大統領に関しては観察中である。

案外、中国に対して厳しく出るとか意外な方向に行ったり。アメリカが保護主義となったら、急成長の中国はパイを取ってしまう新興の国なんで、目の敵にされたりとかないか?クリントンのときは日本がそういう目に遭ったわけだが。そしてアジアに冬の時代が来るとか・・、対テロ措置について、「アメリカだけが担うのはおかしくね?」とかなんとか言いながら、一層、日本に協力を迫るとか・・・・・こういう意外な方向に出たらどうしよう。未知数なだけに、色々不安要素は多い。

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そいやカトリック国フランスがひねくれてるのは、聖と俗を使い分けてきた歴史があるからと、フランス革命で極端にぶれまくった揺り返しを体験してるからかも。明日の味方は今日の敵。ギロチン送ったものがギロチンにかかるみたいな。虐殺をして黒歴史になってるとか、まぁ色々。

ヨーロッパそのものが矛盾を抱えている歴史を色々持っているし、すねに傷ありまくってるし、戦争負けた体験持ってるし。ああいう演説って出てくるかなぁ?それとベルルスコーニなんかとてつもなく馬鹿だし。サルコジもかなり逝ってる。
その点、アメリカはそれに比べると素直。真面目っぽい。ブッシュも馬鹿っぽかったけど、ベルルスコーニ超弩級の馬鹿に比べるとマシな気がするよ。