『ナポレオンー獅子の時代』長谷川哲也 漢臭い戦記物漫画

某作家の挿画で悩んでいたことは先日書いた。
おフランス革命といったら、なんとなく少女漫画的なイメージが出来あがってしまったのはベルバラ効果なのだが、実際は革命の立役者のほとんどは男であるし、貴族社会の豪華絢爛と比して革命軍側に視点を置くなら、おっさん達が組んず解れつやっている世界で、永田町辺りの権力闘争を想像すれば、まぁおっさん臭がふんぷんたるもんなわけで、リアリズムという点ではやはりアンジェイ・ワイダの『ダントン』辺りの空気感が妥当。だが華がないよな。とまぁそんなことを書いた。そいつをなんとなく華あるものに見せた倉田江美の力量はなかなかだと思ったが。これね↓

静粛に、天才只今勉強中! 1 (希望コミックス)

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ジョセフ・フーシェという変節漢を主人公に据えたというだけですごい。時代は革命勃発からナポレオンがロシアで敗退するまでという長い時代を描いているわけだが、なんかまぁお勧め漫画の一つですな。以前もブログで言及した気がするけど。

で、『ダントン』ネタの時に「ナポレオンは華があるよね」と書いた。しかし実はナポレオン関係の著作物に関しては疎い。しかしナポレオン関係、数多あり過ぎ。、やはり華がある人物だからな。なんせ世界中の電波系の人が名乗りたがる有名人の筆頭にあげられるらしいし。ただ、華と言ってもロマン主義的な方向は実はなんか違うような気もする。革命宮廷御用画家ダビットが描くような壮麗なイメージはおフランス人が好みそうだ。その辺りを踏襲しているのが池田理代子の描くナポレオン漫画かも。(「かも」というのは未読である)まぁ人物としても美味しいネタ満載なんで、その肖像を描くだけで面白いですが、何故か日本では漫画化はあまりされていない。池田理代子と倉田江美ぐらい?少年漫画だとほとんど皆無だった気がしますが。
コッポラが編集したやたら長くて死にそうになる映画、こいつは未見なんだがやはり戦場でのシーンとか延々出てくるんでしょうか?とにかくまぁ日本における戦国時代モノ的な、中国における王朝推移期の数多の物語、そしてカエサルの『ガリア戦記』のごとく、戦争好きのおっさん達の心をがっチリつかむであろうなというか、ナポレオンの面白さはそういう戦記物的な要素に当るのだと思う。男の子向きな漫画になってもよさそうなもんだが、どうもこの手の有名過ぎる戦記な世界は漫画になりづらいのか?
で、それをもろに正面から組み付いたというのが長谷川哲也氏である。

ナポレオン 1―獅子の時代 (ヤングキングコミックス)

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ナポレオン 8―獅子の時代 (ヤングキングコミックス)

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書影がないんで、8巻も入れといたけど。
いやね、この漫画、絵がくどいんだよ。北斗の拳みたいな筋肉な男がひしめき合っていて、おまけに通常、腺病質に描かれるロベスピエールが『ヘルシング』の登場人物みたいにマッチョ方向に変だ。筋肉質な肉体であのカツラ。そして何故か丸眼鏡のグラサンしている。しかも堂々と「わたしは童貞だ」とか言い放っているし。漫画のほとんどを占める戦闘シーンは砲撃でぶっ飛んだ肉体の部品まみれで『ベルセルク』を思い出す。
まぁそんな風にくどくて暑くて体育会系で筋肉で汗臭くて、藤原新也が『東京漂流』や『乳の海』で描いているようなママに抱かれたボウヤな男とは対照的な、マチズモに満ちあふれている。つまり日本を覆うグレートマザーによって守られた、平和とエコに満ちあふれた現代世界と対極の、泥臭くて危険ですぐ人が死ぬどうしようもない世界ともいえる。
帯に安彦良和が賛辞を載せているんだが、そういえば彼も戦記モノすきだよね。でももう少しロマンチズムがある気がする。長谷川戦記は身もふたもない感じ。だがそれがリアルだと安彦氏が指摘するように、戦争とはこんなもんなんだと思う。佐藤亜紀の戦争物でもそうだが、泥の中を這いずる世界の話である。
ま、凸マークが大量に出てくる漫画なんだが、その凸マークで俯瞰された光景とそこで繰り広げられてる漢たちの殺戮行為をミニマムに見るとのギャップで時々混乱はするんだが。つまり、いまどこ?どこにいるんだ?他の奴等はどうなってるんだ?みたいな。ちょっと不安感に陥る。これを引いた視点で描けばまぁそのあたりが見えるんだが、肉薄すると見えなくなる。しかし戦争中の人の視点ってこういうふうに他が見えないのが当り前なんで。こういうのシミュレーションゲームにはまってる男子は得意かもしれないが私は苦手なので5回位読まないと理解出来そうにないので、読後すぐ再読してます。

で、仕事でやってるのは実は佐藤賢一の物語なのだが、彼の世界もこっち系で、『双頭の鷲』で見せたベルトラン・デュ・ゲクランの物語などもマチズモ感覚で面白かった。そういう感性で描かれたフランス革命だから当然ミラボーなどというマッチョなあばた面のおっさんが主人公だったりとする。この感性を絵にするにはフランス革命の資料はあまりにもロマンチコなものが多く、おフランスざんす的なエスプリ観が色濃く、話がどんどん進むにつれて、どうもそういう世界はなんか違う気がするなぁと、今更ながら悩んでいたのであった。
そこで、この長谷川漫画の登場。マクシミリアン・ロベスピエールをマッチョな変態にしか見えない風貌で描いちゃう感性がすこぶるよい。漢な世界を漢に描く。左藤賢一はこの人に挿画任せた方がよかったんじゃね?とか実は思ってしまったのだ。
まぁ私の絵柄で「漢」を描くってのは無理なんで、出来るだけ努力する。とか思って9巻まで一気読みしましたよ。続きがたのしみですじゃ。あと、ナポレオンが時々『エロイカより愛を込めて』の少佐に見える時がある。
ところで話は全然変わるけどマッチョつながりの『ベルセルク』の次の巻はまだでないの?三浦建太郎さんはニコニコ動画で遊んでるばやいではないと思う。
◆◆
長谷川ロベスピエールは以下で見ることが可能↓
http://obiekt.seesaa.net/article/58279877.html
ロココなカツラで北斗の拳なマクシミリアン君がイカス。
実は以前から革命の面々の中ではマクシミリアン君になんとなく萌えるんだよね。人気があるサン・ジュスト君ではなく。んで、長谷川哲也のこの描写を見て腑に落ちた。わたくしはアンバランスな変な人に萌えるんだ。なんというかバランス感覚が悪そうなとこが面白そう。教皇ならベネディクト16世はそれ系だ。ただつきあう相手ではないよねぇ。眺めて観察して楽しそう。
それに比べるとナポレオンは普通だなぁ。この人もかなり変な人のはずなんだけど。女房への手紙とかね。この漫画でもかなり挙動が変なんだけど、マクシミリアン君の風貌があまりにアレ過ぎた。衝撃度がすごかったのであとは全部普通に見える。

長谷川氏のサイト↓
http://mekauma.web.fc2.com/
掲示板もあってマメにお相手をしているようである。
ブログも持ってるみたいっス。
http://mekauma.blog89.fc2.com/