『香乱記』宮城谷昌光 秦朝没落漢勃興物語

中国モノ第三弾。三国志関連から清代と来て、今度はもっと遡ります。古代中国小説の王者、宮城谷さんの書。

香乱記〈1〉 (新潮文庫)

香乱記〈1〉 (新潮文庫)

こっちは同じ「しん」でも秦末期。始皇帝の死の前後と項羽と劉邦の戦いの時代が舞台である。

司馬遼太郎で有名な『項羽と劉邦』の話の時代なんだけど、項羽はどーも戦争には強いが冷酷で殺戮が過ぎる。のちに覇者となる劉邦は任侠親父。人材集めは得意なのだが、側近には権謀に長けている、つまりひらたく言えばズルが得意なのがいたりする(例・韓信)。しかも劉邦、品がなく酒と女に弱い。宮城谷昌光はこういうタイプの覇者は好きではないのは過去作品でもよく判る。なのでそういう時代に鮮やかに生きた人は誰かというので探し出してきたのが斉の田横である。

司馬遼太郎の『項羽と劉邦』は名作であるし、わたくしも以前読んで、漢の成立時代の光景はその世界で見ていたのであるが、宮城谷さんの書く、辺境国家斉の田横からの視点でみるとこう映るのだなと。単一でない歴史の物語観点を与えてくれるというので興味ある方にはお勧めかも。

小説の密度からするならちょいと散漫に思えるかもしれない。他作品と比して消化不良感が残った。もう少し講談本的な要素でもいいから盛り上がりが欲しいかもです。つっても司馬遷の『史記』にもおそらくあまり記述がないであろうこの田家の人々を中心に据え、ここまで書いたって辺りですごいか。

あと、出版側への批判としてはこの厚さとこの量の本を4巻に分ける必要あったんですかね。上下巻にして欲しいもんだ。あと地図が大雑把過ぎて難儀した。戦国ものは地図の詳細なのが欲しいものですよ。

項羽と劉邦(上) (新潮文庫)

項羽と劉邦(上) (新潮文庫)

やはりお約束のこれは読まないとね。