島深夜

深夜の島はすごく静かである。時折り遠くで闇鳥の啼く声が聞こえる他はなんの音もしない。今日は波の音すらしない。明け方漁から帰る船の音がするまでは静かに島は眠っている。梅雨に入った島の空は雲に覆われ海との境も分らず、水平線が見えるはずの空間には茫漠とした闇だけが支配している。ただ一人起きている自分はなにかこの闇の異質な世界にほおり込まれたかのようで、それは島犬カナも感じるのか、私が部屋を移動する度に付いてくる。
黄泉と生者の世界とが結びつく。深夜2時から3時の刻を昔の人は禍々しきものが徘徊する時間だと考えた。時刻ではその時間は既に過ぎてはいるが、このねっとりとした闇と静寂の中に身を置くとそれらの魑魅が存在しているかも知れぬと思わずにいられない。
梅雨が過ぎ夏が来ると、島の夜の闇は星の明かりに彩られる。天空を横切る天の川が宙の大きさを実感させる。それはすごく神秘でそして哀しい。賑やかな空、大きな空間のなかに独りあることの寂しさは、時々堪え難くなる。