牧歌的な一日

今日というか昨日は、大変に暖かい日であった。
近くの浜に島犬カナを連れて散策に行く。すっかり春の、初夏のような日差しに穏やかな海の潮の引いた浜で岩伝いに隣の浜まで足を伸ばす。満月に近いのか潮の引きがいつもより大きく、こういう日は行けない浜まで足を伸ばせる。
アオサのびっしり生えた岩が太陽に照らされながら姿を現わす午後、穏やかに呼吸をする波が岩の間を行ったり来たりするその上を飛び越しながら、隣の隣のそのまた隣の浜まで、いつもなら大きく迂回しないとたどり着けない、美しき、娘の浜、メーラビと名付けられたその浜までたどり着く。浜では島のおばぁが一人で岩の間をほじっている。みそ汁要の雲丹を捕っていると。たいした味はないけど出汁が採れるんだよ。島おばぁがいうには昔と比べて少なくなったと。
島の暦は月に影響される。それは海が月と共にあり、島は海と共にあるからなのだが。だから月齢はすごく大切だったりする。島の人たちは月齢によって変わる潮の満ち引きを記した暦を見て、浜にやって来る。島の人々にとって浜は恵みをもたらす大切な場所。
夜、家の前に落ちる月を見る。月は水平線を青白い光で燃やす。ちらちらと光る波間を漁船の影が横切る。夜半に漁に出る船が帰ってくる。あるいは月のない夜。真っ暗な大気に既に春を待つ本土へ飛び立とうとする鳥達の気配を感じる時がある。渡りが羽根を休め再び旅立つ、春を運ぶ鳥達のささやかな休憩所として島はある。
これから夏に向けて、オカヤドカリが目を覚まし、畑にはグラジオラスが咲き乱れ、沢山のあげは蝶が舞う。そういう季節がやって来るはず。そうなると家の窓を全部開け放ち、外気とともに常にある生活がはじまる。梅雨が来る前の素敵な季節はほんのわずかだけれど。かなり楽しみ。