国際ゴシック様式

なーんとなく中世とか14世紀あたりの画集をぱらぱらとめくっていた。シエナ派などは「国際ゴシック様式」などといわれている。昔から「変なネーミング」と思っていた。ゴシックに対し国際ゴシック?ゴシックというのがそもそもルネッサンスに比して野蛮臭い、野暮臭いと、ジョルジョ・ヴァザーリ辺りが言いだして付けられた名で大変に失礼な発想の単語であるが、それに「国際」がつく。インターナショナルな野蛮????フランス革命兵士みたいなのを連想しちゃうネーミングだなぁ。
ローマ文明マンセー中華思想ヴァザーリがダサダサと切って捨てたゴシックを再評価したのは19世紀のイギリス人達であった。おフランスの王室の馬鹿げたロココとかナポレオンのギリシャ・ローママンセー新古典主義を批判し、ゴシックこそスンバらしいのだと、ゴシック様式で国会議事堂まで建てた。北方からの反撃ですな。カロリンガルネッサンスからゴシック〜北方フランドルに至るまでの素晴らしい文明を無視するとは何事だ。ローマなんぞという腐った文明よか俺達の北方文明こそスンバらしいのだ!!!と鼻息荒く再評価をしていく。まぁ、ゴシックは確かにいい。ローマもいいけどゴシックもよい。もっともえげれす人が嫌いなおフランスの土地で揺籃された文化だけど、その再評価の最中で、ヨーロッパ全土に広がっていったこれらゴシック様式には地域性ではなく、国際性、つまり様式の地域を越えた共通性があるということで名付けられたらしいよ。
カロリンガルネッサンスの頃の美術というとロマネスクで、写本装飾や建築には地域的な差違が見られる。スペインでよく読まれたベァトゥス写本と、シャルルマーニュの造った大学のあったトゥールに残された聖書写本の挿画なんか比べても全然違う。ベァトゥス写本はすごく平面的で幾何学的だ。トゥールのはローマ時代のモザイクを思い出させるような人物描写が目立つ。もっと北方のアイルランドの「ケルズの書」などはバリバリのケルト文様。ベァトスス写本の幾何学的様式はイスラム文化の影響なんだろうか?ちょいと面白い。イスラムの(実はムハンマドなんかもバリバリ表現している)ミニュチュアールはどちらかというとあまり幾何的ではないのだが、イスラムにも地域性というのがあったのか?謎。それがゴシック期に下がるにつれてだんだんと表現に共通のものがみられるようになる。写本などは行き来が激しいので互いに影響しあっていったんだろう。
国際ゴシックの特徴は過剰な装飾と、絵画における風俗的な要素の挿入。風景画が積極的に採り入れられていく。中世の秋の時代の、ルネッサンスへと続く様式、表現が模索されていった時代でもある。ことに細密な写本挿画のある「ベリー公の時祷書」には、歳時記的な表現が盛り込まれ、季節の移り変わりの風景を見ることが出来る。これらは「時祷書」と呼ばれる一年の典礼にあわせた祈りの本の挿画ゆえに、季節の変容が描かれるというのは機能的でもあったのだが、俯瞰した風景を持つ風俗画的な要素があるというのはこの時代辺りからかもしれない。で、こうした風景画の表現は初期ルネッサンスの北方フランドル絵画などに展開されていくようになる。
ローマ・ギリシャが人物画にばかり意識がいくのと違い、国際ゴシック様式のものはなんとなく室内装飾とか、風景的な要素にも目が行く。写本美術などには細密に描かれたフランスの地方領地などの風景画が美しかったりして「これってお城が主人公だよねぇ。」という構図のものもある。「ベリー公」本の画家ランブール兄弟の趣味なのか?
とはいえ、国際ゴシックが発展したシエナなどの作家でもロレンツェッテイの絵画などはその傾向があるんで、風景描きが楽しい♪という流行があったのかもしれないですね。アナール学派の人の本にもそんなのがあったような気がするんですが、タイトルを忘れた。
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因みに調べてみたら「国際ゴシック様式」なる言葉はフランス人の美術史家でクーラージュという人らしい。「ルネッサンスを産んだのはこの国際ゴシック様式なのだ!!!我が国が産んだゴシックこそが源泉なのだ!!フィレンツェ人共に偉そうな顔されてたまるものか」みたいな?(ちょっと規視感を覚える・・・)
だがシエナ派や北方絵画の影響をあきらかにルネッサンスは受けているわけで、フラ・アンジェリコにしてもフィリッポ・リッピにしても、アンジェリコは「ベリー公」本的な伝統を継承しているし、リッピはロヒール・ヴァン・デル・ウェイデンの影響を受けていると思う。ローマヲタのマザッチオなんかはあんまりそーでもないように見えるけど。
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ところで世紀を書く時によく間違えてしまうなぁ。1400年代は15世紀だ。とか。イタリア語では1400年代は「クアトロチェント(400)」というので間違えないんだけど日本語に頭の中でなおす時に間違えちゃいますね。でも本当の400年代の時のことはどう言うんだろうか?今、謎に思った。