ロカマドゥール〜モアサック

コンクとモアサックは実は以前も来ている。モアサックは一泊したが今回は2泊だ。ゆっくり回れるよ。
で、コンクから出発したロマネスク一座はロカマドゥールとかいう村とかサン・シルク・ラ・ポピーとかいう村とか、カオールとかいう町とか寄りながらモアサックにたどり着いたのですよ。皆様、知らないだろ?こんな街。私だって着くまで知らなかったよ。
◆ロカマドゥール
崖になんだかへんてこな形で教会がしがみついているところ。ほんとに崖にへばりついているんだよ。すごいよ。しかも小さい街なもんで店は閉まってるし。崖の上にバスが着けてくれたけどしばらくどういう状況か把握してませんでしたよ。で、階段を下りると点々と十字架の道行きが。でかいなぁ。こっちの道行きは。色まで着いてるし。でも近代の作品みたいで興味ない。降り切った所にあった教会はロマネスクな、しかしへばりついているために様式なんぞへったくれもない、面白い所でしたよ。ただ街はほんとにナニもなくて巨大な犬の糞が落ちているだけだった。
◆サン・シルク・ラ・ポピー
変な名前。という感想しかなかったんだが、行ってみるとこの小さな村が実によいたたずまいをしている。アンドレイ・ブルトンが好んだというこの街も丘の上に建っていて、素朴な光景である。コンクからこっち薪で暖をとっている家が多くここの街の煮炊きの匂いもまことによろしい。スモークしたソーセージなんぞをつまみに酒が飲みたくなるが禁酒令が発動しているためにそれはシュールレアリスト並みの幻想である。悲しい。
とにかくナニもないところだ。与論並に何もないのがいい。丘に登ると見渡す限りのゆったりとした大地と河がかもし出す光景に激しくいい気分になったよ。それくらいか。
◆カオール
丸天井の教会堂がある。なかなかに興味深い。こんな天井のはアングレームの教会くらいか。あとは都会だ。都会は嫌いだ。ぐりちゃんと喫茶店に入ってだらくさしたよ。モップみたいな犬を連れたおじさんがいたのでカナのことを思い出して少し寂しくなったよ。
◆モアサック
夜にたどり着く。前に着たときよりちょびっと栄えている気がするよ。でもそれまで糞ど田舎に居過ぎた性かも。気のせいだと思う。ここは2泊。ゆったりできます。昼間、移動と街の店が閉まりすぎていたせいでろくな飯にありつくことが出来なかったぐりちゃんは、チェックインを済ますと即座に食いに出かけたらしい。旨い物にありつけたようだ。よかったねぇ。
次の日、ロマネスク一座は果敢にも早朝に起き出してアルビとトゥールーズに出かけてしまった。残された数名はモアサックでだらくさする。当然、私は居残り組。実の所ルピュイで倒れたときに腰をしたたかに打ったらしく、何故か左足が痛くて曲がらず動かなくなっていたんだな。寒いとそれがもろにでるので階段とかうまく上れないよ。やだやだ。背中も痛いし。ばばぁな肉体が恨めしいや。未だにその後遺症で左足が痛い。保険を使って病院に行こうかな?
で、同じ居残り組のぐりちゃんとサン・ピエール教会を見に行く。ぐりちゃんは初めてなので「しつこくサン・ピエール見物」を所望。でも、何度見てもいい教会ですよ。
モアサックはコンクの流れにある巡礼路の教会で、そのタンパンがやはり有名である。特にモチーフがパリの国立図書館にあるサン・スヴェール版ベアトゥス・ヨハネ黙示録注解の写本の挿絵に似ていると指摘されていて、確かに人物のフォルムはコンクのそれよりもより洗練された、ゴシック期に移行する形状を示している。入り口の柱の部分に刻まれた預言者エレミヤの像は状態が素晴らしく美しい。内部はやはり改革馬鹿に破壊された痕が見られるけれど、それでも残された彫像などに面白いものが幾つかある。北方フランドルを思わせる形状の彩色彫像やフィリッポ・リッピの初期作品を思い出させるような非常にユマニスト的表現の彫像などがある。時代的にはルネッサンス期のものらしいが糞度田舎なのでへたくそな彫刻家が彫ったようでロマネスク的に見えるがやはりルネッサンス期固有の人間性があるのが面白い。
教会に付随した回廊の柱頭彫刻は有名で、石工が思い思いの形を刻んでいる。愉しんで彫っているのが判るように、中世芸術は近代のそれより激しく自由である。中世カトリックはイメージとして厳しく情報統制された「暗黒の時代」などと評されるが大間違いである。それは人文主義史観と、プロテスタント的史観と、反宗教改革的史観と、近代主義史観と、マルクス史観とに波状攻撃で彩られた誤まったイメージだと思う。少なくともこれらの作品、ロマネスクの多くの教会に残された痕跡には自由と喜びがある。寧ろ反宗教改革芸術の方が厳しく原理主義的だと思うよ。そういうことを、ル・ゴフとかいうアナール学派歴史学者さんも指摘していたらしいよ。カトリックは絶えず改革しながら中世の時代からルネッサンスを用意し、宗教改革をしてきたとかなんとか。破壊され、或いは糊塗され、ロマネスクは今は辺境にその片鱗を見るだけだが、しかしそれらの多数残されたすぐれた遺産の欠片は、当時の人々のダイナミズムを伝えてくれる。それがロマネスクの旅の醍醐味であるよ。
だが、、、冬のロマネスクはやっぱり寒い。回廊の案内人の兄ちゃんが変な顔で説明しているのを聞いているうちに足が痛くなったので流石に回廊を出ましたよ。
カメラマンの石山さんがこの日、一足先に日本に帰るというので駅まで送る。ガイドさんとぐりちゃんとで鄙びた駅までたどり着いたけど、駅はいいっすね。ヨーロッパの駅の旅情をそそる感じはなんとも。ナニよりすごく小汚い列車がまたいいよ。