アイルランド幻想

暑い時は幻想文学に限る。というのでさらに涼しそうな国の幻想文学を購入。読破。

アイルランド幻想 (光文社文庫)

アイルランド幻想 (光文社文庫)

光文社の洋物は面白いものが多い。中世のイギリスを舞台とした修道士カドフェルシリーズに、ローマ帝国密偵ファルコシリーズ。編集者にマニアがいるのではないかと思う。その光文社がまた変な本を発掘してきた。著者はケルト文化の学者で、こういう学者が幻想文学を書いてしまう例は沢山ある。渋澤龍彦の「高丘親王航海記」イタリアの民話を集めているイタロ・カルヴィーノ、そういえば「指輪物語」のトルーキンも学者さんだった。
この幻想文学は副題が示すとおりのゴシックホラーで、しかもアイルランドの英国に対する呪詛が満ち溢れていてそれが怖い。クロムウェルが「カトリックは改宗しなければ首をつるしていい」とか「神父は全部殺せ」とかいう命令などを出していたそうでかなりの数のカトリック教徒が殺されたとか、イギリスからの入植者によって、アイルランド人は農奴となるか、もしくは不毛の土地へと追いやられたとか、知らなかった歴史が沢山ある。イギリス人はほんとうに悪いやつらなんだな〜〜〜などと思ってしまうぐらいの呪詛ぶりである。
どうも当時のイギリスのプロテスタントからするとアイルランドカトリックは迷信的で、偶像崇拝者なので、滅ぼしてもいいとまで思っていたようである。今時はこんな「カトリック偶像崇拝者で間違いであり、彼らは救われていない」などということをほざく危ないプロテスタントは一部の原理主義者以外に存在しないけれど、とにかくクロムウェルってのはおっかない人だったようですね。「ヘルシング」ならイスカリオテ機関を呼び出したくなる場面です。イスカリオテ機関の人々はカトリック原理主義なうえに激しく凶悪なのでクロムウェルといい勝負でしょう。
で、北アイルランド問題の根にはこういう歴史背景があったのかというのを恥ずかしながら初めて知ったという次第。呑気に「ブレンダン航海記」っていいなぁ、アイルランドって呑気っぽくていいなぁとか思っていたのでした。とほほ。