高い城の男

高い城の男

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

先日、一緒に飲んだ某神父が『ヒトラー〜最後の12日間』という映画を見たが面白かったと言っていた。今まで人間として語ることすらタブーだったヒトラーの「人間」を描いた映画らしい。怪物ではなく一個の人間の中に潜む狂気というか、我々自身に内在しうる弱さ、それがヒトラーと彼に関わった人間達を通じて表現されている。それはナチズムという思想に殉じた存在があるという点に於いて、福音書のイエスと対極にありながら同一の光景を描き出している。などと感想を述べておられましたよ。弟子達に裏切られるイエスと、部下に裏切られるヒトラーがどのような経過を辿るかの比較をしながら見ていたようです。

で、『高い城の男』
これはアレですな、架空歴史モノ。第2次世界大戦を枢軸国が勝利していたらという設定でありますが、しかしディックなのでそういう設定の面白みよりも主人公達がひたすらその世界で苦悩していたりする。別にどんな設定でも主人公は変に苦悩するので、相変わらずなわけですがディックのドイツのナチズムや日本に対する感覚が透けて見えて興味深い。日本はよく分からんが東洋の神秘な国で、ドイツは悪夢そのもの。作中には「大戦後の歴史を逆転させた・・つまり本当の史実の世界を描いた」小説が出てくるが、何故か中国は蒋介石の支配する国家であった。ぜんぜん史実ではない。。ディックにとって東洋よりも「ナチスドイツ」が重要らしい。ディックは共産主義が嫌いなのか?なんか短編集の自己注解でも「麻薬と共産主義と堕胎をネタにして人様を怒らせてきたよ。」などと告白していますが。
しかもこの小説、易を立てながら書いていったらしいので彼自身結末は易頼りというトンでも手法をとったらしい。まるでダダイスト小説だ。つまり相変わらずニューエイジ臭いんだけどその手法において面白いとは思いました。