弔問外交 バチカンを巡る潮流2

昨日、あまりに寝つけないので仕方がなく眠剤を飲んで寝たお陰で、今日は人間らしい時間に起き、色々していた。この生活パターンを維持しないとね。
で、続きと書いた、弔問外交とバチカンの今を。
まずは当地の状況はと申しますと、葬儀の準備と共に、連日枢機卿会議が開かれているそうです。コンクラーベの開催がいつになるのかは決まっておらず、世界各地から集まった枢機卿達は、次の教皇が就任するまでローマに留まらねばならないそうです。しかしバチカン内のサンタマルタ宮殿に泊まれるのはコンクラーベの時のみ。ですからそれまではローマ市内のあちこちに散らばってお泊まりなようです。ホテルに泊まられる方もいるだろうし修道院などに身を寄せられている方もいらっしゃるかもしれません。コンクラーベ中のバチカン宮殿内の宿泊施設も50ユーロとられるそうで、環境と設備を鑑みて世俗のホテルよりは割安とはいえ「仕事で来た枢機卿といえど貰うものは貰うよ。」というバチカンの吝い運営っていうのも面白いなぁと思いましたね。呼びつけておいて払わせる吝さ。でも枢機卿である以上、呼びつけるのも自分自身であるわけなので。自分で自分を呼びつけて金を払う。ということですかね。しかし、今、ローマは報道陣やら弔問にかけつけた信者でごった返し宿も満室状態。出遅れて宿を探しそびれた枢機卿が1つ星辺りのホテルに泊まっているとかありそうです。

法王の葬儀参列者、各国要人200人超か
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20050405id21.htm
 【ローマ=藤原善晴】ローマ法王ヨハネ・パウロ2世の葬儀が8日と決まったことを受け、
バチカンやイタリア当局は警備や交通面などの準備を急ピッチで進めている。

葬儀の前後に、全世界からバチカンを訪れる巡礼者は「200万〜400万人」(伊ANSA通信)に達すると
みられる上、伊内務省は、葬儀に世界各国の大統領、王族、首相などの首脳級の要人が200人以上参列すると
みている。約6400人の警察官の動員を発表済みだが、増員の可能性もある。
ローマ法王葬儀の特使に川口首相補佐官
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20050405ia02.htm
 細田官房長官は5日午前の記者会見で、8日に行われるローマ法王ヨハネ・パウロ2世の葬儀に、
政府特使として前外相の川口順子首相補佐官を派遣すると発表した。

日本からは川口元外務大臣が派遣されるそうです。この人選については私は良く評価はわかりません。多くの方は小泉の外交音痴きわまれりと批判しているようですが、最近、要人達の葬式にはこの方が出席なさることが多く、外交手腕に関して小泉首相が信頼を置いているということでしょうか?日本の考えは読めないのですがキリスト教国ではないために、バチカンの場を外交手段として用いる必然性は感じられなかったということでしょう。
一方、アメリカはブッシュ大統領クリントン前大統領、ブッシュ元大統領、ライス国務長官というモノすごい顔触れ。この意気込みたるやなんだ??という感じです。先日アメリカは次代ローマ教皇には倫理に煩い宗教右派的な保守派を希望しているのでは?と書きましたが、リベラルな民主党クリントンまで行く。実はこの影にはアメリカの南米や中南米への警戒心もかなり入っているのですね。そもそも南米の政治があれだけぐちゃぐちゃなのもアメリカが政治介入を波状攻撃に加えてきたからで、共産主義政権の樹立への警戒感に加え、先日書いた「解放の神学」的カトリックの流れをも潰してきた歴史があるわけです。(これにおいてヨハネ・パウロ2世への評価は玉虫色とも限らないとはいえますが)とにかく南米はそのほとんどがカトリック教徒であり、カトリック内の動向が政治に跳ね返って来るアメリカとしては弔問にも気合いがはいってしまうということでしょう。
結婚式を延期した不運な男のいるイギリスは、チャールズ皇太子、ブレア首相という当然のメンバーがやって来ます。礼節の国ならではの人選。流石に女王陛下自ら赴くわけには参りませんから。そしてそれに加え、宗教改革以降はじめて英国国教会からカンタベリー大主教が葬列に参加します。ローマ・カトリックと教義はほとんど同じであるが歴史的に分裂してしまったアングリカン・カトリック(英国国教)とはヨハネ・パウロ2世の代で和解が進みつつありました。カンタベリー大主教が葬列に参加するということで、500年の対立の歴史がようやく終り、対話の時代に入ったという歴史的瞬間とも言えるでしょう。
それ以外の国もキリスト教圏は教派を問わずトップが出席するようですね。

さて、そういうごった返したニュースの中、フランスでは弔意を表す措置についての議論が巻き起こったようです。

ローマ法王の死、政教分離の仏で“半旗論争”
http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20050405i215.htm
【パリ=島崎雅夫】政教分離を国家理念とするフランスで、ローマ法王ヨハネ・パウロ2世の死去に伴い、
政府が政府庁舎などの国旗を半旗とするよう命じた措置をめぐって論議が巻き起こっている。
同措置はラファラン首相が2日夜のヨハネ・パウロ2世の死去に伴い24時間、政府庁舎や全国の市町村
庁舎の国旗を半旗とするよう関係者に命じたもの。ヨハネ・パウロ1世など過去の法王や友好国の国家元
首の死去、さらには昭和天皇崩御の際にも半旗としたことを挙げ、「共和国の慣習」(内務省)に応じた
措置であることを強調した。実際にはほとんどすべての行政機関で半旗が掲げられた。

 ところが、社会党の一部や環境政党などは100年近く続く「政教分離」の原則に抵触するとして反発。
特に同原則を適用し、昨年9月からイスラム教徒の女子生徒が公立学校でスカーフを着用することなどを
禁じたため、「原則に二重基準を導入するもの」との意見が出ている。

完全な政教分離を貫こうとするフランス。近年はイスラムの人口も増え、宗教対立となるネタは避けたい。正直イスラムの女性のスカーフ禁止というのはセクハラに近い措置だと思うのですが、徹底するなら一宗教指導者に対する反旗も禁止でしょう。まぁ、当然でしょうね。しかしますますギスギスしてくるのでは?とは思います。宗教を大切にする者たちにとって慣習までが否定されるというのは無宗教という宗教を押し付けられるようなものではないでしょうか?特にスカーフをはぎ取られた女性達の思いはどうなるんだろう?といつも思います。リベルタがあるようでない。
で、中国がまたも変化球を投げてきました。
最近の中国は常任理事国入りの問題で日本に五寸釘を打ちまくっていますが、バチカンにもかかさず打ち込んでいるようです。

ローマ法王庁、台湾との断交を検討=香港司教
2005年 04月 5日 火曜日 15:02 JST 
http://www.reuters.co.jp/newsArticle.jhtml?type=worldNews&storyID=8084995
 [香港 5日 ロイター] ローマ法王庁バチカン)は、中国が宗教の自由を保障すれば、不本意ではあ
るが台湾との関係を断絶し、中国との関係を築く方針だ。ローマ・カトリックの香港教区の責任者である司教
が5日、ロイター通信に明らかにした。
 同司教は、「中国政府が中国本土において教会に本当の自由を与えてくれるのであれば、ローマ法王庁は、
不本意ではあるが台湾との関係を断つ考えだ」と説明。一方で、「法王庁と話し合う前に、中国政府が法王
庁に対し、まず台湾との断交を求めているのは、公正なことではない」としている。
 中国は、1950年代に外国人の聖職者を追放して以来、ローマ法王庁との関係を断っている。

いやはや、バチカンが「国交」を台湾と結んでいるとは。知りませんでした。バチカンは一応国家なんですよね。しかし教皇空位の時にこういう話がいきなり司教の口から飛びだすのは異例。この微妙な時期にバチカンの政治を左右する事柄について一司教が公的に発言するなどありえないと思うのですね。これについては司教の言葉は仮定として話されていた。という人もいて、訳文の問題なども指摘されていますが、ロイターの記事ですしねぇ。どうなのでしょうか?
ただ、この時期に香港とはいえ既に中国支配下にある地の司教の発言。中国が異常な警戒をバチカンに示しているとも考えられます。中国ではキリスト教徒は弾圧の対象ですが香港には多数の亡命してきたキリスト教徒が多そうです。そして中国に睨まれていることは想像出来ます。香港司教の立場などもどのようなものなのか判りませんが、そうした香港という地方の危うい立場からのメッセージ。次の教皇戦へ向けての東アジアからの思惑が透けて見えてくるようです。このニュースの影に中国の思惑が透けて見えるだけに不気味です。

で、その俎上に上がった国交のある台湾のニュース。

バチカン陳総統を法王葬儀に招待か 台湾紙
http://www.sankei.co.jp/news/050405/kok073.htm
 5日付台湾各紙によると、台湾と外交関係のあるバチカン当局者は同日までに、8日に営まれる
ローマ法王ヨハネ・パウロ二世の葬儀に陳水扁総統を招待する意向を示した。

ただ、ローマ市内にあるバチカン訪問にはイタリア政府の許可が必要。中国側が陳氏の入国を認めない
ようイタリア側に圧力をかけるのは必至で、葬儀出席は困難とみられる。
陳氏の出席が不可能な場合は、政権幹部を特使として派遣する見通しという。(共同)(04/05 20:29)

台湾としては中国があんな要求をしていますから必死です。台湾に同情したくなりますね、いきなりローマ・フミチーノ空港から税関を経ず、ヘリを飛ばしてバチカン宮殿内に泊めてやれ!と思います。

様々な国がバチカンを介して微妙な思惑で動きを見せているなか、こうしてみると日本も中国牽制の為にバチカンにトップクラスを送り込むくらいはした方がいいかもしれません。

やれやれ、やはりいろいろ生臭くなって参りましたね。しかし生きているということはこういうことでもあるとは思います。清涼な場に身を置き、祈ったのち、我々はまた俗で罪深い世界に戻らなければならない。様々な利害の絡む俗な世界で生きる。それが人間の営みなのだと思うのです。イエス・キリストがこの世に来たということもそういうことなわけだと思うのですが、まぁその話はやめておきます。