修道士カドフェルシリーズ「ハルイン修道士の告白」

読了。
ここしばらくずっとこのシリーズを読み続けてきた。中世オタクには必読の書。キリスト教文化としての歴史が長い国で書かれた小説だけあって、しっかりしている。著者がイギリス人で尚且つ女性であるというだけあって繊細な表現であり、人物それぞれへの暖かさがあり、イギリス固有のしっかりとした感覚が安心感を与える。イギリス人作家というと他にポール・セロー(ミステリー作家ではない)やP・D・ジェイムズ(硬派のミステリー)などが好きだけど、セローの視点はひねくれていて意地悪だし、ジェイムズはとにかく重苦しい。その意地悪さも重苦しさもイギリスらしいといえばいえるけどね。カドフェルの著者、エリス・ピーターズの場合はアガサ・クリスティの伝統をひきつぐ正統派という感じである。
舞台が修道院だけあって、キリスト教の、カトリックの伝統的な光景がいたるところで散見出来る。それもベネディクト会という特に伝統的な修道会であり、また時代もベルナルドゥスの生きている時代でもあるということでちらりとそういう事への言及がなされていたりするのにはにやりとさせられる。南において異端が・・というくだりもピエールアベラールがサン・ベルナールとやり合っていた事を指すのだなぁと。我がフランシスコ会がまだその誕生すら予見出来なかった時代。そのなかで生きている人々は思いの他自由で明るい。暗黒の中世などと揶揄される時代ではあるが、この物語の中の人々は今よりも自由で、背筋が伸びている。
聖と俗の世界をはっきりと、それぞれが分をわきまえて認識し、生息している時代の価値と秩序には安心させられるが、その伝統を受け継ぐはずの現代のカトリック教会では、全てが曖昧とし、身の置きどころに戸惑うことが多いのは残念なこった。俗の世界は先鋭化することもアリだと思うけど聖域は毅然としていて欲しいなぁと考えてしまうのは自分が中世オタクだからだろうな。(あと画家という職人としての職業病かね)