土曜の島は土用波

昨晩から月齢は満月。夜の島を冴え冴えと青く照らす月が、雲がわずかな空を横切り、西の海原の波頭を輝かせる。
家の中まで月明かりに充ちた静かな夜。
月光に照らされ野生の声に目覚めたか、島犬カナは落ち着かず、網戸を開けると一目散に飛び出してゆく。
いつもなら庭に出て走り回り、一通り満足すると部屋に戻るのだが、昨日は裏手のキビ畑まで一目散に走って行き、キビ畑の闇に消えてしまった。追いかけていたミモザだけがすごすごと引き返してくる。どこ行ったんだ?明日帰ってきたら勝手に庭から外に出たことをこっぴどく叱るしかないと思ったがしばらくして戻ってきた。月明かりのもと走り回りたかったのか。謎。
一夜開ければ再び過酷な太陽の照りつけるトロピカル。
しかし台風のせいで波は荒れ、泳ぐには些か不向きな海の面。土用の波と常より強い風の性で、そこはかとなくざわついている。
ああそう言えば来週の土用(木曜日)は丑の日だ。鰻だぞ。
鰻はやっぱり江戸か柳川で食いたい。旨い鰻が食いたいなぁ。夏は常に島なので、どうもこの旬の味はここ数年愉しんでない。このかっと糞暑い時に暖簾をくぐらないと気分が出ない。だから秋から冬に東京に出稼ぎに行った時にでも食べればいいじゃんというとそういうもんでもない。やはり7月か8月に食べないとなぁ。
浜田山にいた時はよく食べに行った。近所にやたら時間がかかる店があって、なんとなく近いんでそこに行っていた。「近所の鰻屋」っていうのが大切。その店は近所の鰻屋感があってなんとなくよかった。あとは柳川で食べたのがすごく旨かった。人に連れられていったんで店の名前すら覚えていないんだが、ご飯が程よい堅さで旨かったんである。しかもなんだか鰻が二段になっていた。
夏は他にも水茄子とかも食べたくなりますです。
いずれにしても島だと食生活は貧しいですよ。なんせ下流なんでお取り寄せとかそういう技も出来ないし。第一、一人もんだとお取り寄せても多すぎて泣く。

今月はお客さんが泊まりに来たり、鍼のセンセにお昼をご馳走したりして、なんとなくご飯を人と一緒に食べる機会が多かった。常なら祖母ぐらいであるが。今月は泊まりのお客さんが複数だったし。にしても誰かと一緒にってのはいいなぁとか思った。一人で食べるってのはどうもなぁ。我が家の食卓がにぎやか過ぎたせいもあり、こういう時結婚でもしてりゃよかったなぁなどと思うのであった。くそ。
まぁ誰か島にまた遊びに来ないかなと思うが、遠い上に飛行機代が高いし台風が来たら目も当てられないしで、強くお勧め出来ないのが悲しいのであった。