叙任権闘争@中国

さてまぁガチで対決している西欧リベラルと中華ナショナルはすでにもとの問題がなんだったか判らない方向に行きはじめているし、つまりリベラルメディアは報道に自由よこせ的な色合いも強く、中華ナショナルは「チベット独立反対中国は一つ」のスローガンを垂れ流し、Free Tibet!タグ貼ってるな人は、マジチベット独立運動しようぜ、北京五輪潰そうぜな勢い。
ダライラマが何度も会見で言っていた言葉は吟味されていない。
ダライ・ラマ14世の主張は
・中国はひとつである。
北京五輪を支持する。
という前提で成り立っている。まずもって憤青の批判はまったく的外れである。
つまり、一中国人として、信教の自由が欲しい。というだけである。
でも、中国は一つで五輪は支持だよという、そこんとこダライラマが言ってるよってことになったら、象徴としてのチベット、或いは少数民族、もしくは台湾への圧力的なものは希薄になってしまうので、認めるわけにはいかないので、聞かなかったふりでもしてるんだろうか?特に背後で煽ってるとしか思えぬ中国政府にしてみるなら、それを認めることが出来ないくらい、やはり綱渡り内政を行っているのかもしれないし。
今、中国政府が弱体化したら世界は大変なことになる。その思いは中国政府も、ある程度の知識人である中国人も、そしてダライラマも感じてはいるだろう。故に上記の大前提は崩されてはならない。

ただその大前提において、ダライラマチベット宗教者のアイディンティテイは保証してくれという話であるが、これがどうも中国には通用しないようである。

わたくしの所属するギョーカイ、つまりローマカトリック教会が昨年、中国と対決したことを覚えておられる方もいるだろう。中国には多数のクリスチャンがいてカトリックなども多いのだが、教会には地下教会と愛国教会というものが存在し、ローマカトリックで言えば、前者はまぁ伝統的な教皇を頂点とするヒエラルキアにある組織構造の教会であるが、後者は中国政府が管理する中での教会である。つまり前者の人事権はバチカンにあり、後者の人事権は中国にある。これは昔のヨーロッパでいうなれば、英国国教会の独立の経緯にも似ている。まだ西方教会が数多に分離していなかったローマカトリック欧州中世では政教はそれぞれが独立した存在であり、聖と俗がガチ対決をして争っていた歴史が長く続いていた。しかしローマに吸い上げられていく教会税とか、或いは国王のゆうこと聞きやしないうっとおしい坊主ども、外国の手先が入り易いよな坊さん世界のボーダレスなあり方など、は国王としては容認し難い。英国国教会の独立はそうしたものが背景にあり、俗にいう「離婚したくて独立した」は瑣末なことに過ぎない。とにかく統治するにあたってうっとおしい勢力を排除したいとは、俗な権力者なら、まぁ思いたくもなるわけで、中国もおんなじ。まして宗教団体というと政治結社的な存在が圧倒的に多かった歴史の思考では。

で、チベット。こちらは民族のアイディンティティの問題であり、また本社が外部に存在しているカトリックと違って本社が中国に押さえられていますよ状態で、散々の弾圧と破壊によってチベット人の宗教であるチベット仏教を継承していく機関が機能していない。聖と俗を分離して考えるなら、まぁダライラマは総本山をインドなりなんなりに据えりゃぁいいなどとも思うのだが、しかしローマカトリックにしても人事権を中国に認めることが出来ない理由は、宗教的な、つまり秘跡的な、合理主義者や無神論者には電波と思われかねない理由があるように、チベット仏教が持っている伝統的なナニかはやはり仏教寺院の機構として受け入れるわけにはいかない事情があることは想像出来る。例えば活仏問題一つとっても対決の歴史は長い。ダライラマはそうした宗教的文化の固有性は維持したいので、そこだけは譲れない。これら長い間に培われた伝統は単純な合理化も、妥協も出来ないのは、中国とバチカン叙任権闘争を見てもよく判ろうというものだ。

しかし・・ふと思うのだが、欧州リベラルは、自分とこのおひざ元の宗教の人々が弾圧され中には拷問されているのがいるというのにそういうのにはあまり声を上げないんだよなぁ。むしろ散々馬鹿にしきってきたので、ローマカトリックにしても欧州ではどんどん衰退している。文化的虐殺というなら欧州でも伝統宗教は真綿で首を絞めるように虐殺されているのだな。

そういうわけでどうも欧米リベラルは、この問題も信教の自由よりも、人権とか報道の自由とかそんな方向での話にしてしまうんだろな。特にフランスなどは教会との闘争の果てに自ら手にした人権思想に自負を持ってるわけで。目の攻撃色が他より強そうである。
彼らにとってダライラマという記号は宗教者ではなく、自由平等友愛なのかもです。また中国にとっては中国を分離させる存在の記号となっているようです。

この中ではダライラマのみが実は現実的な認識を持っているようです。

で、内田樹センセもこの件でついにエントリ。
一日一チベットリンク運動/Eyes on Tibet

今日はうにうに上記のことを考えていたら、内田センセがタイムリーなまとめ文を書いてくださった。
内田樹の研究室
http://blog.tatsuru.com/2008/04/23_0900.php
ダライ・ラマ畏るべし

落とし所を失っている中国。ダライラマはすごいよ。