ウィキペディア(米)の「島原の乱」の項目は真か?偽か?

授業のレポートなんか書かせると最近はネットで拾った記事をそのまま書き連ねるのとかいて困り者なんだが、海の向こうのメリケンさんでもそれは同じらしい。

ウィキペディア頼み、誤答続々 米大学が試験で引用禁止
http://www.asahi.com/international/update/0223/002.html
バーモント州にある名門ミドルベリー大学の史学部が、オンラインで一定の利用者が書き込んだり修正したりできる百科事典「ウィキペディア」を学生がテストやリポートで引用することを認めない措置を1月に決めた。日本史の講義をもつ同大教授がテストでの共通の間違いをたどったところ、ウィキペディア(英語版)の「島原の乱」(1637〜38)をめぐる記述にたどり着いたことが措置導入の一つのきっかけになった。

 日本史を教えるニール・ウオーターズ教授(61)は昨年12月の学期末テストで、二十数人のクラスで数人が島原の乱について「イエズス会が反乱勢力を支援した」と記述したことに気づいた。「イエズス会が九州でおおっぴらに活動できる状態になかった」と不思議に思って間違いのもとをたどったところ、ウィキペディアの「島原の乱」の項目に行き着いた

ま、私なども最近はこういうニュースはネットで読む。上記のニュースもぐぐるのニュース速報にあったりしたんで知った次第だが、情報の速さとかそういうのに有効だけど、論文ネタに使うにはやばいでしょってのぐらいは判るので、生徒には複数の資料に当たって調べろ。などと言っている。特にネットで調べたものは鵜呑みにするのは危険というのが常識だと思っていたけど、それは学術論文レベルで、自分の趣味世界での気楽な調べモノ程度ならやっぱりネット使っちゃう。正直、メリケンさんでも利便性に負けてる学生多いんだねと思ったら、妙に親近感も覚えたよ。

で、イエズス会問題。

イエズス会が九州でおおっぴらに活動できる状態になかった」

・・・・とは、ほんとにそうか?

先日書評を書いた『クワトロラ・ガッツィ』あたりを読み直すといいんだろうけど、残念ながら江戸時代までは詳細はない。しかしイエズス会の日本管区の年表なんかみても禁止令後も日本にやってきたイエズス会士はいたようだ。
http://www.jesuits.or.jp/history-n.html

確かに「イエズス会」が会として反乱を命じたとか、会がそれらを応援したとか、そういうことはないだろうが、スペイン的な好戦的な修道士がいたし、その辺り、若桑さんがコエリョなんかスペイン的ナショナリストで、好戦的と評していた。だから修道士レベルでそういうことを応援したのはいたかもしれない。

だから「禁止令が出たのち、イエズス会はおおっぴらに活動は出来なかったが、修道士が潜入して反乱勢力を支援した」という記述ならありうる光景だ。

この点では日本のウィキの「島原の乱」の記述は正確というか、色々複合的な要因が絡んだものであったことを記している。。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B3%B6%E5%8E%9F%E3%81%AE%E4%B9%B1

まぁ、わたくしは島原の乱なんぞ詳しくないんで、それが正しいとか間違いとかいえない。天草四郎って一般的に萌え系のキャラだけどね。わたくし的には全然萌えないな。

内田樹氏も取り上げていたので、いちおう備忘。
http://blog.tatsuru.com/2007/02/23_1353.php
島原の乱異聞

そうだなぁ、鎖国がなかったらどうなってたんだろう?ダイナミックな交流の根を絶たれてしまったともいえるが。中央集権化するには戦乱がまだ続きそうで、だから戦国時代がしばらく続いたかも。ゆえに国内の平安を早く望むならやはり鎖国しかなかったかもしれない。される側の光景としては、自由な貿易と交流という浪漫的なものが絶たれてしまったともいえる。

◆◆
ところで、イエズス会ネタって、普通はトンデモがらみで出てくるよね。と学会の本で紹介されてたネタで、反フリーメーソン陰謀論者ラルーシュという人が敵視する組織にロックフェラー家とシオニスト社会主義インター、日米欧三極委員会(なにこれ?)などと並んでイエズス会の名が堂々と入っていた。

でも確かにイエズス会ってのはなんとなくあやしい。なんせ彼らの出現した時代は宗教改革真っ只中で、反宗教改革というプロテスタントに対しプロテストする形で出てきたもんだから、性質上、なんとなくアグレッシブ。なもんでイエズス会というのは陰謀論者からするならおっかない秘密組織に見えるようだ。黒いスータン着て、イエスの騎士団みたいに勇ましい辺りが既に怪しい。馴染み深いフランシスコ会の坊主(とにかくまとまりがなく、互いによく喧嘩もしている)と違って、妙にびしっとした結束力がある。そう。フランシスカンと違ってみんなきちんとしているんだよね。背筋がピッと伸びて眼光鋭そうで・・・陰謀論者ならずとも想像力をかきたてるファンタジックな集団だよな。

イエズス会陰謀論例↓

天皇のロザリオ』の鬼塚英昭ネタ
イエズス会士は日本人の奴隷売買をしていた」という話
○愛・蔵太の少し調べて書く日記
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20060304/p1
[ネタ]キリシタンが日本の娘を奴隷として50万人も買った」という既知外テキストを信じている人がまさかいようとは

私も上記を受けて調べてみたエントリ↓
http://d.hatena.ne.jp/antonian/20060301/1141184938
■[カトリック・その他]陰謀論の風景

・・・まぁ、ポルトガル商人とかは買ってたようです。

植民地時代のスペインとかポルトガルとかオランダとかイギリスとかフランスとか、どれもこれもトンでも凶暴なんで、イエズス会もなんか言われても仕方ないでしょうけど。ただ上記の件に限定するならイエズス会士が「奴隷の売買禁止」を要求していた公文書(若桑みどりが確認)も残っているんで、まぁこれは流石に濡れ衣でしょう。

あと「日本を支配下に置こうとした尖兵」的な批判もよく聞くのですが、「スペインにとって、日本は資源に乏しく、全然魅力のある土地ではなかった」という若桑さんの記述読んで、微妙にがっくり。日本って魅力ないのか・・・_| ̄|○
そもそも、日本のように好戦的な大名が大量にいて、尚且つ高度な精神文化が発達する土地を、武力でもって制圧し支配するような体力がスペインにはなかったらしい。なもんで植民地化する意欲もなく、寄港できる港の確保と交易の自由が欲しかったようです。へぇ。

『クワトロ・ラガッツィ』については以下を読んでくださいです。
http://d.hatena.ne.jp/antonian/20070206/1170741983
■[書評]『クワトロ・ラガッツィ』若桑みどり