入院日記・1

遺言を遂行するまでもなく、無事帰ってきたので、入院中のことを随時書いていきますです。
まぁ、手術ったって、10人に一人ぐらいは体験していることだろうし、たいしたことないです。帝王切開した人とか盲腸した人とか事故っちゃった人とか、切腹してみたけど途中でやめた人とか・・・きっと、同じ思いしたと思うよ。

●入院一日目
10時前に来い。ということで病院に行く。以前紹介した様々な書類などを提出し、チェックインを済ますと、病室に案内してくれる。

4人部屋のつもりが、仕事が入るとのことでとりあえず個室にしといた。これなら遅くまで仕事できるからね・・とスタンバってっていたが編集さんから連絡で「すみません。S先生の原稿が激しく遅れています。本日、お届けできなくなりました・・・」とのこと。そういうわけですごく暇な手術前日を過ごす羽目になる。因みに原稿の完成の報は手術中に届いた。をい。

入院病棟は新しい建物の9階でやたら眺めがよく、ちょっとしたシティホテル並に綺麗だったので、ユーレイの心配は不要だった、

で、前日はエコーでの確認をしたり、麻酔の説明を受けたりと、ちょっとした検査以外はナニもすることがない。しかも21時以降は飲み食いするなよ状態なので、ほんとにナニもすることがない。

◆麻酔について
麻酔については麻酔科が担当。そういうわけで麻酔科まで行って説明を受ける。

今回の手術は全身麻酔と局所麻酔の併用。
全身麻酔は呼吸麻酔。局所麻酔は「硬膜外麻酔」と呼ばれるもので脊髄に注射をして行うものです。これによって術中、術後の痛みが緩和されるというシロモノ。
手順としては以下の通り
1)脊髄に注射していく(麻酔医の話では歯医者の麻酔みたいなあの嫌な感じだそうだが実際はそれよりマシだった)
このとき患者は横臥し背骨の関節を開く為にえびのように身体を丸くしている。先ずはじめに局部麻酔を施したのち、そこに太目の針を射す。医師がそこから徐々に麻酔薬をゆっくりと打っていく。これらはものすごい細いカテーテルを通じて投薬されていくらしいよ。背中に目がないので判らなかったけど。
2)仰向けになり、静脈注射による麻酔薬を打たれる。
3)麻酔ガスによる全身麻酔
4)気道にチューブを通し本格的な麻酔状態になる。(因みに麻酔ガスを止めると患者はしばらくして覚醒するらしい)

これらに関しての詳しい情報や危険性について書いた小冊子を渡され「読んでおいてね」と言われたけど、めんどくさくて読まなかった。物事が始まっていない段階で素人がプロの世界に不安がってもな。あと看護婦さんから「手術を受けられる患者さんとご家族様へ」というプリントをもらって説明を受けるが、手術前の手順が事細かに書いてある。丁寧に細かい手順・・つまり痛そうな光景がそこに記述されているのだが、看護婦さんが描いたと思しきメルヒェンなイラストつきで、どーにも苦笑してしまった。メルヒェンに手術の光景描くなよ・・・。

5時過ぎに、師匠が聖体を持ってやってきた。カトリックには「七つの秘蹟」というものがあり、洗礼とか、結婚とか、告解とか、そういうののほかに「終油の秘蹟」と呼ばれるシロモノがある。映画なんぞで死ぬ前の人がなんじゃら神父呼んでやってるアレだ。昨今は死ぬ前の人だけではなく大病な人とか手術前の人への治癒祈願の為の秘蹟に変容しているらしいので、せっかくのカトリック・サービスを受けないのはもったいないので、師匠にお願いしておいたのだな。
しかし、こちとら腹になんかある以外は健康なので、全然真剣みがなさそうな雰囲気のもと秘蹟を受ける羽目になり「病者の塗油ごっこ」というか終油の秘蹟リハーサルみたいで、どうも様になりませんな。粛々と秘蹟を行ってくれた師匠に感謝。

で、師匠が病室での写真を写メールで送ってくれたが、人の写真に「牢獄」の額縁をつけて送ってきた。師匠のケータイに何故かそういう加工するオマケがついていたらしい。失礼である。ただあまりにこの日は退屈だったのでそんな気分だったことは確かだ。

21時に寝ろというが、眠れん。そういう申請をしたら眠剤をくれた。コロリと寝てしまった。

●手術当日
朝、飯もなく、腸の中のものを無理やり出さされる。(よーするに浣腸される)水も飲まず、飯も食わない状態で、点滴をつけられて寝てろ状態。仕方がないので持ってきた『医療崩壊』を読んでいたがうとうとしてはまた読みをしているうちに、現実と読書世界が溶解し始めたので、精神衛生上よくない気がして読むのをやめた。あとはFF3をしていた。

腹の状態の確認をしてもらう。ちゃんと産毛とおへそが綺麗かどうか確認してくれたが合格だった。術前の不安はないかと、色々聞かれるも、なんせ初めてのことなので不安もへったくれもない罠。未体験ゾーンなもんで全てが不安といえば不安な気もしてくるが、どちらかというと好奇心のほうが勝っている。なもんで「不安を感じるほどの知識がないので、不安はない」といっておいた。

午後3時ごろ手術室に入るといわれていたのに2時になったので家族が到着せず。術後帰ってきたときの申し送りが出来ないので困る。とりあえず帰ってきたとき困らないためにベット周りは整えておいた。特に仰向けになって手の届く範囲に置いときたいものを用意しないとなぁと思ったものの、結局、思った以上に手が届かなかったのとしばらくナニも出来んので用意したつもりのことは無意味だった。

一応母と妹に電話を入れるがどちらも病院に向かっている途上でつかまらず、微妙に不安になったので、師匠に「今から手術室行くんでヨロ」などとCメールを送っといた。

手術着に着替え手術室に向かう。手術着は微妙に重い。ポチ(点滴)と共にベットごと移動。部屋からベットに乗ったまま移動していくんだが、まるで遊園地のアトラクションに乗ってる気分になる。寝たまま移動していくってなんか嫌だね。寝台用エレベーターは優秀なのか振動がまったくない。シンドラー社製ではないだろうな。

手術室に入る前の道行きは今まで見たことがないプロ世界で興味深いが、まじまじ見るほどの時間もなく手術室前の予備室に突っ込まれる。つまらん。この予備室でベットからストレッチャーに移されるのだが、このマシンが大げさというか、ベットにゴムのベルトコンベア、「ハッチウェイ」というシロモノが接続されてストレッチャーに移動する。ベットの高さとストレッチャーの高さが違うのでこのハッチウェイでパナマ運河の如く高さを調整して移動するんだが、こちとら健康体なもんで「よじ登って自主的に寝たほうが早いだろ」と思った。

ストレッチャーは思ったよりも狭い。そこから手術室に運ばれる。深夜のNHKのアメリカの医療ドラマみたいな部屋だ。つーか、そのものだ。こっちが本物だ。

麻酔技師が麻酔処理の準備をする。背中にアルコール消毒をしてくれるのだが「おや?アルコールアレルギーですか?」と聞かれる。縫った途端、真っ赤になったらしい。今までそういう反応があるのを知らなかったので「背中だけがそうかも」と答えておいた。最近酒絶ちしていたから皮膚が酔いやすいのか?

昨日説明を受けたとおりの手順で麻酔の準備をしていく。最後によくあるあの例の呼吸器を当てられ「はい!深呼吸してください〜」といわれた。
「おお!こいつが噂のあれか!」
と思い、何秒で昏睡するか数えようと思う前に昏睡したらしい。他愛もなくコロリと逝ってしまいました。

ブラックアウト。

気がつくと母と妹の声、先生の声がする。「返事をしてくれ」といわれるので返事をしたり、申し送りが出来なかった様々なことやS先生の原稿のことなどを尋ねて、あれこれ指示を出していたらしいが実はまったく覚えていない。

そのまま、また昏睡したらしい。

夜中、激痛と熱でうなされているが、先生の「あなたは血栓が出来やすいので身体を動かすように」が怖くて足を動かしていた。そうでなくとも同じ姿勢のまま寝ていると床に圧のかかる部位、かかとや臀部が痺れて痛くなってくる。どうやら放置していると床ずれになりそうで、なるべく動かすようにしていた。動かしていると痛みは辛いが痺れて床ずれになりそうな部位の痛みは緩和されていく。ほっておくとどんどん鬱血してあやしからんことになりそうなのは自分でもよくわかる。

この間、尿管、点滴、痛み止めの背中のカテーテルが繋がったままのチューブ人間で、尿管がなんとなく痛くて辛い。熱が高熱なのか、氷枕などをあてがわれていた。