*[闘病記]産婦人科医の危機

ええ〜。先日から産婦人科の話していて殿方はコメントしずらい内容でスマンです。でもマイブームだからね。ゆるせや。生まれてはじめて行ってみたんでかなり興味深いのよ。
本日は職場で他の先生方に色々聞いた。なんせ女性ばっかり。年齢としては40代とか、50代とかが中心。それなりに「腹に一物あり」を体験済みの人が多い。特に40代に異常に多いという話になった。やっぱりね。周りには不妊の人多いし。我々の世代はガキの頃に添加物やら怪しげな農薬のかかった野菜とか食べている上に大気汚染が酷かった。成長期にそんなもの摂取していた世代は怪しげなできものが出来やすいだろうし、短命かも知れぬよ。
で、「階段上ると疲れない?」などと聞かれる。そうなんです。この数年めきめきと足に来ている気がする。で、それは貧血の症例のひとつだという。
そうだったのか。自分としては激しくナマケモノで運動しないから足に来たんだと思っていた。つまり怠惰による結果ではなく、病気のせいだったのか〜〜〜!!!!
正直、安心した。病気抱えて安心してりゃ世話ないけど、怠惰の罪の結果といわれるよりずっといいではないか。

鬱の人が「頑張りが足りない」といわれ余計に悩んでしまう。追い詰められるってのも判るわ。そして怠惰と思えたものが鬱による結果だと知ると安心できるってのも同じかもしれない。

と、まぁ婦人科な病抱えてしまった身としてこのニュースは気になった。

▼奈良妊婦死亡:搬送先探し、診断不正確で遅れか
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20061020k0000e040067000c.html
奈良県大淀町大淀病院で意識不明となった妊婦が搬送先の大阪府内の病院で死亡した問題で、同県立医科大病院(橿原市)から搬送先を探すよう求められた府立母子保健総合医療センター(同府和泉市)が、府内の7病院に受け入れを拒否されていたことがわかった。同センターには、妊婦が子癇(しかん)発作であると伝えられたため、それに対応できる病院を探したと証言している。同センターは「脳内出血と正確に診断されていれば、別の病院に打診し、もっと早く搬送先が見つかったはず」と指摘。大淀病院で「脳内出血」と診断されなかったことが、転送先の決定を遅らせた可能性がさらに強まった。

 この問題では、県立医大病院を含め、少なくとも奈良県内で2カ所、大阪府内で17カ所の計19病院が受け入れを拒否。これまで県立医大病院が大半の病院に打診したとみられていたが、一部を同センターが担っていたことになる。

 同センターの末原則幸・産科部長によると、8月8日午前2時半ごろ、大淀病院の依頼で搬送先を探していた県立医大病院から受け入れ打診の電話があった。「頭痛があり、子癇発作らしい」との内容だったが、脳内出血の可能性を示す症状の説明は一切なかった。同センターは満床だったため、要請を断った。

 医大病院から「一緒に探してほしい」と求められたため、府内で受け入れ先を探した。しかし、満床や人手不足などの理由で7病院に拒否され、同4時半ごろになって、国立循環器病センター(同府吹田市)に決まった。妊婦は同6時ごろ到着し緊急手術を受けたが、8日後に死亡した。

 大淀病院は、妊婦を子癇発作と診断した。しかし、専門家によると、子癇発作は、けいれんの後に脳内出血を起こすことがあるが、脳内出血の場合、一般的に頭痛の後に意識がなくなり、けいれんする。妊婦は頭痛を訴えた後に意識不明に陥り、けいれんを起こした。

 大淀病院では内科医が、脳内出血かどうかを診断できるCT(コンピューター断層撮影)の必要性を主張したが、産科担当医が受け入れなかったという。

 末原部長は「脳内出血で母親の命が危ないと分かっていれば、産科より救命救急センター、大学病院を中心に搬送依頼した。搬送先が決まるまで待つ時間があるなら、CTを撮る時間もあったのではないか」と指摘している。【根本毅】

もともとマイミクさんのXiaoliさん経由の情報なんですが、[これはひどい]なにが酷いって、マスコミの医者叩き。またかよっていう点で。案の定、専門家の人々は怒り心頭、もしくは絶望的な気持ちになっておられる。
はてな界隈でもお医者さんが切実な声を挙げておられる。

○新小児科医のつぶやき
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20061019
2006-10-19 奈良事件に誤診はあるか
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20061020
2006-10-20 まだチャンスはあるのだろうか

小児科や産婦人科の医者不足は相当らしく、クライシスを起こしている。それは世間の無理解、専門職への無理解や、無理解なくせに医者は万能になんでも治すという不可思議信仰。そういう考えに囲まれて、このマスコミで叩かれている60代の医師は、たかが仮眠すら赦されない。しかも仮眠ということはあきらかな時間外労働の中で、全て判断し対応しなくてはならない。しかし病というのはまことになにがあるか判らん。過労死しろといいますか?という過酷現場で、世間からは白い目で見られる率の高い非常なリスキーな環境で生きている。

こんなんじゃほんとに皆さんが仰る通り、マジ成り手がいなくなるだろう。

こんな過酷な環境で一生懸命身を粉にして働く希少価値の先生に「うへぇ興味深いにょ〜」などとすっとぼけた私のような患者が診てもらえているだけでもすごいことなんじゃないか?

確かに奥様をなくした家族のことを思うと辛いことだし多くのお医者さんもそう思っているだろう。多くの人の助けになることが仕事だからね。死なせる為に仕事しているわけじゃない。
問題は医者ではなく、医者を配置しているシステムを管理する人々にある。社会構造に問題がある。或いは世間の視点に問題がある。

そういやつい最近「ブラックジャックによろしく」という漫画を読んだ。研修医の話で、お話だから周りにいる医者にはトンでも君も多かったりするけど、あくまでもそれは漫画であって、実際は大学病院なんかでも多くの真面目な医者がうごめいていると思う。そういうお話の中で、マスコミ報道が精神病患者を危険なものとして報道しているそれに疑問を投げかけたエピソードがあった。実際に精神病患者は健常者並に、もしくは健常者以上に危険ではない。しかしマスコミは「精神病患者は危険だ」と煽る。それってどうよ?的な話だった。
或いは「受け入れ拒否」の現場の真相なんかもあったな。受け入れても対応できない悲劇。受け入れたくても受け入れてしまっては逆に患者を殺してしまうかもしれない。それがあちこちの大病院で起きている。

報道するもののバイアスは様々な場面で見ることがある。はじめに絵があってそれに即した記事を載せるという手法。例えば先だってのベネディクト16世の失言問題でも「キリスト教イスラム教」という絵をより際立たせようとする報道の扱いに疑問を持ったと話した。マスコミ人は概ねリベラル派でベネディクト16世に対してはハナから批判的で「保守」のイメージを持っている。だから「べね16イスラム邪教などと思っているだろうな」という絵は彼らマスコミの好みに合う。

この報道をめぐって、某掲示板でマスコミの取り上げ方に疑問を呈したら「あなたはカトリックだから教皇のことを肯定するんだ」などととんでもない批判を食らった。あ〜。なんでもまずは疑ってかかるわたくし的には教皇のいうことはとりあえずまず疑ってかかるけどさ、この事件は調べていくうちに教皇が気の毒だと思ったよ。なもんで何故気の毒だと思ったのかそれの経緯を説明したのだが「信者は盲目的に教皇を肯定する」という思い込みがまずはじめにありきで、その経緯などは無視された。更にマスコミについての批判に対しては一切念頭に及ばないという。それってなんかおかしくないか?などと思った。他者には考えを疑えというのに自分の立ち位置に対しては疑うことすらしない。また、そういうマスコミの教皇批判の根底には神学への無知がある。専門知識の欠如が表層的な現象のみ反応してしまう。だからスキャンダラスな部分にだけ目がいく。専門家の世界の文脈がまったくないなかで頓珍漢な批判がされるというわけだ。

とにかく希少価値な先生をこれ以上減らされると私のごとき婦人病の人間も困るのよ。真面目な専門家な産婦人科医を素人知識で見たスキャンダラスな絵になる光景だけで追い詰めるなと言いたい。

しかしマスコミの人たちは自分達への批判はあまり省みない。マスコミのこのような俺様体質こそなんとかした方がいい。自らの価値や考えをまず疑え。としか言いようがないですな。

◆◆
追加記事
産婦人科医会「主治医にミスなし」 奈良・妊婦死亡
http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200610190064.html

朝日グッドジョブ。
双方の言い分をきちんと載せるのが大切です。
とにかく叩きにならないといいですね。