アントネッロ・ダ・メッシーナ

メッシーナといえばシシリアの海峡である。おっさんの女房への寄り道いいわけ話「オデッセイア」によればスキュラという怪物がゴロゴロいるところである。『女神転生』でタコおばさんに描かれている怪物ね。シシリアを旅した時、この海峡をフェリーで渡ったが、怪物は見なかった代わりに船内でイタリアのまずいビールを飲まされ、メッシーナ=まずいビールのイメージしか残っていない。
そんなメッシーナで活躍した画家、アントネッロ・ダ・メッシーナの回顧展がローマで行われている。
アントネッロ・ダ・メッシーナについて↓
http://www.salvastyle.com/menu_renaissance/messina.html
回顧展について。イタリアサイ
http://www.mostraantonellodamessina.it/mostra.html

アントネッロの絵は、ちょっと謎。書斎のヒエロニムスの絵にしても、マリアの受胎告知にしても、セバスチャン像にしても、どこか謎っぽい空気に満ちている。それがなにかはよく判らないけど謎。なもんで気になる画家でした。なもんでローマまで見に行きたいけど行けるわけもない。そんなわけでローマ特派員のぐりちゃんにすがってしまったわけでございますよ。彼が見てきたアントネッロ・ダ・メッシーナ展の感想とカタログで二次体験という按配。

カタログでは北方フランドルの影響についての指摘がまず為されていて、影響を受けたと言われるベッリーニと共にその画面上での精緻な表現、人物像と背景との関連性などちょっと面白いです。ルネッサンス期ですから当然光学的な遠近法の実験は彼もしていて、「セバスチアヌス像」や「書斎のヒエロニムス」で展開していますね。このあたりでピエロ・デ・ラ・フランチェスカの影響なども言われておりますが、空間による神秘的ななにかを感じます。ことに「書斎のヒエロニムス」の屋内光景はピラネージの「牢獄」シリーズを連想してしまうぐらいへんてこ空間で。
建造物を書いていないが異様な構図というと、磔刑像もかなり変。通常イエス像の脇には二人の死刑囚が描かれるんですが、その死刑囚が自然木に繋ぎ止められていて、身を捩っている。遠方に広がる牧歌的な風景と比して、なんだかボッシュブリューゲルの絵に通じるセンスを感じますが、この辺りでも北方フランドルの影響がどこかに出てきたという感じでしょうか。
人物像における表情の豊かさ。こちらも特筆すべきものですね。その辺にいそうなイタリア親父が沢山。その流れでマリア像を「受胎告知」の引いた風景でなく、表情だけで見せるという演出が面白い。驚きをも以て受け止めるマリアと、すべてを「なすがままに」受け止めたマリアとの表情の差異がいいですね。こうした流れはカラバッジオに受け継がれていったのかも。
とにかく品のいい表現をする画家だなぁという印象です。
しかし、展覧会カタログは充実していて、様々な作品との比較、考察、この展覧会のキューレターの意図などがよく判る。一冊の美術評論書としても自立している。なもんでつまらない画集を買うよりずっと役に立ちますね。この辺り、残念ながら日本の展覧会カタログはまだまだだなぁと感じなくもありません。とにかく資料としても一級ですね。一級なんでページ数も多く、分厚くて、重い・・・・・。