ル・ピュイ

この日、ローマからぐりちゃんが来る。ロマネスク一座に彼も合流するのだな。ぐりちゃんは実は中世教会史の専門家なので歩くガイドみたいなものだ。助かるよ。しかし実はすごく久しぶりに会った。ネット上ではよく話しているのであまり感じていなかったんだけど、やはり直接会うとご無沙汰していたんだなぁと実感する。なにより・・・
太っていた。
・・・・あごが。
聞けば、巨大なローマの修道院(一ブロックぐらい使って建っている巨大な建造物が住居である)に突っ込まれているために部屋から出ないで引きこもって勉学などしていたせいらしい。部屋の目の前が風呂とトイレなので階段文化のない与論在住の私より運動不足が酷そうだ。もともとラガーマンとかしていたので体格はいいんだが、それに更に肉がついているのでドラえもんのようだったのが更に磨きがかかっていたよ。もともとロッセリーニの映画に出てくるような修道士のごとき特異な風貌だったのでわたくし的には「変な人」というイメージだったのだが・・・旅の主催者の画廊オーナーTさん(美人・独身)がぐりちゃんを一目見て「すごく素敵な人」とか言っていたよ。美術家と付き合っていると美意識が他人と違うようだ。特に髪型(自分で切っているらしい)が気に入ったらしい。よかったね。
で、久しぶりに会ったので飯を食いにいこうということになり、ぐりちゃんがあらかじめ調べてくれた候補のレストランを挙げるのだが、三回ぐらい聞いた中に必ず「シュークルートが食える店」が入っている。「あそこもいいよ」といいながら「シュークルートの店もあるんだけどね」とか言うもんで、どうも本人はこのル・ピュイでアルザス料理が食いたいらしいよ。結局、その店に行く。なんでル・ピュイでアルザスっつーか、よーするにザウワークラウドなドイツ料理だ?だが、このレストランはおいしかったので赦す。それに修道院に引きこもって貧しい食生活の反動が出ているらしい。旅の間中食いもんにはこだわっていた。どこぞの師匠濱ちゃんもそうだけど、この人々は食い物が重要らしいよ。
で、ウマ〜なご飯を食べて、人心地ついたわたくしめは、ちょいとトワレットにいこうとした。その途中で目の前が暗くなり、気がついたらぶっ倒れていた。うまい飯と食前酒と少しの葡萄酒を愉しんだ性もあって、いきなりあらぬ場所で大層心地よい眠り(楽しい夢を見ていた記憶あり)についてしまったのですよ。数分後、気がついたら店の人が顔を覗き込んで「ホスピタルに連れて行け」とか「救急車を呼ぶ」とか言ってるし。ぐりちゃんはえらく困っていた。しかも気がついた時「どうしたの〜?」とか呑気なことをほざいたらしく、(たぶん実は激しく怒っている)ぐりちゃんに・・・
酒と煙草禁止令
・・・・・を出されてしまいました。え〜っと煙草はいいとして、酒というと旅の最後はボルドーなんですけど・・・。ボルドーって、世界遺産になったサンテミリヨンとか、しゃと〜まるご〜ったらいう葡萄酒とかあるトコだよね・・・この日を境に酒は不可。他人様が飲んでいるのを味見するだけの寂しい生活となってしまいました。泣)
しかし、気を失うっていうのは、しかもこんなに長く失ったのは実ははじめてである。酒の量もたいして飲んでいないし、そもそもいつもならこの程度の酒量は普通に健康的に飲んでいるのだよ。一体どうしたのか不安であるよ。たぶん歯を抜いた性とこの寒さのせいだ。ムカつくだよ。
で、お店の人にハズバンドとカンチガイされたぐりちゃんは泣く泣くわたくしをホテルに送る羽目になったのだが、久しぶりの再会がこれじゃぁねぇ。正直、済まんかった。

◆ル・ピュイ
旧友の再会はともかく、ル・ピュイである。ここは以前訪れたことのある街なので今更って感じだったのではあるが、中世専門のぐりちゃんのお陰で再発見があったよ。
ル・ピュイはサン・ジル同様、サンチャゴ巡礼の起点であり、また侵食された地形によって奇妙にそそり立つ岩山が街中にある起伏のあるところである。一番高い岩山の頂点にはサン・ミッシェル教会が建っている。200段もの階段(これが運動不足なわたくしにはきついよ)を登りきったところにある小さな聖堂には(かなりへたくそな性でロマネスク化した)ルネッサンス期の絵画なども残っており、時代変遷が垣間見れて面白いですよ。更に現代彫刻の天使のいいのがあったりして、おフランスの芸術パトロン魂はここにも息づいておりました。
大聖堂には小さな黒いマリアがあり、昔はこのマリア崇敬が盛んだった痕跡を今に伝えている。大聖堂横の回廊はフランスには珍しいスペイン的な(というよりイスラム的な)要素が入り込み独特の表情を残している。サンチャゴ巡礼によって人々の往来が盛んとなった名残がここに残されているようだ。
先日も書いたけれど、現地調達の石の文化はここ火山性の石が沢山採掘されるル・ピュイでは黒い石として街の風貌を決定する。黒い石に白い目地というテクスチャーはサン・ミッシェル教会にも見られるが、大聖堂の回廊では白と黒の石を用いてまるでシエナの聖堂のような白黒模様を描いている。更に目地には鉄分を多く含んだ漆喰を用いている性か赤い色が今も残っている。それらのかもし出す雰囲気は今まで見た教会建築には存在しない。
ところで、巡礼路はいいんだが・・クリミヤ戦争のときの大砲を溶かして作ったという巨大なマリア像がどかんと街中を見下ろすように建っているので、大船か高崎かと思っちゃいますよ。趣味悪いです。ほんとにフランス人の趣味の悪いのはとことん悪いのな。