歴史的洗脳

歴史というのは、解釈する人の主観によってどうとでも解釈できる。完全なる相対性を保持しようとするのは難しい。しかし歴史を教える現場の人間が相対化する努力を惜しむどころか、特定の主観をのみ語るのは、それは学の放棄に他ならないなどと思います。
・・というわけで、以下のブログをご紹介。

日々徒然
日教組某県作成の教科書採点表
http://blog.so-net.ne.jp/hibiture/2005-02-16
1.民衆が歴史を作る原動力である。
2.東アジアの国際関係を正しく位置づける。
3.戦争を反省し平和への願いを持つ。
4.人権を尊重し民主主義を守る。
5.ヨーロッパ中心の史観を克服する。

まぁ、この5点は解釈いかんによってはその通りだけど、
それに続く項目がすごい。超マニュアル。
自分で考えさせない新興宗教の指南書みたいですごいです。
かなり偏って鼻息が荒いです。

12.琉球王国
  琉球王国の成立と独自の文化に触れているか。

与論島の民話では、琉球王は侵略者なんですね。
薩摩もだけど、琉球も侵略者になってしまうのです。

13.十字軍
  イスラム世界に対する侵略として捉えているか。

確かに十字軍は質の悪い傭兵な騎士がいたり、ヨーロッパの馬鹿王達が鼻息荒く遠い土地まで行って何してるんだ?というのは自然な感覚なんだが、十字軍に先立つ前の世紀。イスラム勢力はキリスト教徒の土地へ侵略・・・いや、進攻して、かつてキリスト教徒の国だった北アフリカイベリア半島までも占領してるんだな。このイスラムの発展期の時代は西方ヨーロッパなどは辺境で野蛮な土地。イスラムビザンツに比べたら第三世界みたいなものかもです。今のアメリカなみにぶいぶい言わせてイスラムグローバリズム地中海世界に広げていたわけで、第三世界な西方ヨーロッパ人は怖くてたまらなかった。とにかく東からも南からも侵略者だらけ。だから終末論なんか流行したりする。で、この時代はビザンツこそ最先端の文明なトコで、後の十字軍の時代になるとそのビザンツイスラムに押されて風前の灯になりつつある危機的状況。で、「キリスト教の同胞の危機!」などとおためごかしを言いながら*1調子こいて勝手をやっている西方の野蛮人ととにかくよく分からないけどなんとなくおっかないイスラムに取り囲まれたビザンツの運命やいかに?って状況でしょうね。イスラムを出すならビザンツも出してあげたほうが公平だと思います。*2
ま、「共産主義を憎む現教皇の密かな働きでソ連は崩壊した」などとまことしやかな噂が流れるカトリック教会は共産主義者の永遠の敵でしょう。現にヨーロッパのローマ・カトリックな方々は共産主義嫌いが多い。日本でも昔はマルクスの「マ」の字も語らせないほどだったらしいですが、昨今は少し毛色の違う人もいるようです。
対抗する共産主義者も「カトリック教会がいかに悪辣か」を教育するために、例えばその象徴として「十字軍」を持ち出すのは手っ取り早いと思いますね。教会に対立する啓蒙主義歴史観英米プロテスタント歴史観と、そしてマルキスト歴史観、それに加えて日本最大の某宗教団体の憎悪の対象としての教育という絶え間ない努力のお陰で、日本人のほとんどに、ローマ・カトリック*3というとイスカリオテ13課のような陰謀をいつもしているあやしいところだとか思われてしまうのかもにょ。(・・・と、流石にそれはないか。笑)

で、とにかくこんなすごく一方的で表象的なマニュアルで教育*4されたら歴史認識が馬鹿になると思います。歴史は複数の視点で検証しないといけません。ある特定の立場において護教的なのはよくありません。歴史というものは立場によって解釈など幾通りにもなるわけで、それゆえに相対性が求められるわけですからマルキシズムからも相対化されたほうがいいです。あまりにも相対的に検証しすぎて激しく本が分厚くなってしまうアナール学派の雄、ル・ゴフ先生に鍛えてもらったほうがいいです。

まぁ英米歴史観が優性なのは確かで、イスラムからの歴史とかはもっと知っておくべきとは思いますが、ルネッサンス期以降のイタリアの惨めな歴史とかバルカン半島から見た歴史観とか、アフリカから見た歴史観とか、色々あるよね。でも高校や中学の教科書ではそれは無理だ。

でも、一つの視点しか持たせないというのはあきらかに洗脳ですから。

*1:十字軍■煽ったのはサン・ベルナール。アベラール様の天敵だわ。

*2:西方ヨーロッパ■かつてのローマ帝国コンプレックスを引きずっている為に、他の文化に侵食されることなど認めたくない馬鹿どもの集団・・・ともいえるかもしれません。そういう病理は未だ微妙にあるようです。東方ヨーロッパビザンツは不幸にもルネッサンス期に完全に滅亡してしまいます。滅亡するというコトはどこかが侵略したということではあります。ただしイスラム文化は非常に発展していたわけで、力関係からして仕方ないでしょうね

*3:カトリック教会■時には英米まで含むヨーロッパ代表。世俗の権力より、まずヨーロッパを語るならこれ・・・というわけで「新しい歴史教科書」にまで大航海時代の侵略者の親分的な立場で書かれています。この時代は既に王様のほうが偉かったんですけど、丁度、太平洋戦争期のような天皇のような立場でお墨付きを与える立場ではあるのですから責任を問われても仕方はないんですが、左翼にも右翼にも嫌われているカトリック・・・って、立場なくて悲しいよね。でも、新しい歴史教科書さんも「現代の価値などで善悪を裁いてはいけません」と言ってるので大目に見てあげ・・・・たくもないか。

*4:教育■これは教科書の採点表らしいけど・・・採点表が必要っていう教育者集団ってどうよ?