修道士カドフェルシリーズ「異端の徒弟」

異端審問。悪名高いアレがテーマになっているこの巻を読了。
ここでやり玉に上がっているのは、救済における予定説と自由意志の問題。三位一体の問題。原罪と洗礼の事など、まぁ、キリスト教の教義の基本ですね。カドフェル達と同時代人のアベラール様(はぁと)の名が上がったり、過去の神学者としてのオリゲネスの名が上がったり、魅力的な「異端者」の百花繚乱だ。
小説の中で異端と指摘された青年はアウグスチヌスの予定説の思想に疑問を抱くのだが、これはこの時代からかなり後にトマス・アクイナスが解決する。その後、宗教改革の時代にカルヴァンなど改革派によって予定説は復活するも、アルミニウス主義(普遍救済説)を採択したと言われるメゾチストを設立したウェスレーが登場したり、イギリス史の中だけで見ると、この国では救済に関する考えにおいてはかなり揺れ動いたのだなぁなどと思います。ピータース女史の脳裏にはこのウェスレーの存在がよぎっていたのかもしれません。
救済のことは神様にあずけるしかないと思いますが、しかしここに登場する聖職者達の反応が、ことに異端者に目くじらを立てる坊さんの言動は、「いるよなぁ〜〜こういう人。」という感じで面白かった。
とにかく神学論争がテーマになる小説は面白い。ウンベルト・エーコは勿論のこと、佐藤賢一氏の神学モノも面白い。けれど佐藤氏のは信仰者の独特の心理に肉泊していないので惜しい。やはりどうしても歴史家であり、俯瞰した視点にとどまってしまっている。その点、ピーターズ女史の主題としたテーマは信仰者が必ず直面する信仰上の基本的な悩みなだけに、にやりとさせられますね。