島の霊異記

antonian2005-06-01

むかつく野良猫が昨日も家の周りをウロウロしていた。追い払う為に箒を持って飛び出すと、件の猫は慌てて隣のジャングルに逃げ込む。その後を追い掛け、初めてみじかな存在でありながら足を踏み入れることのなかった、隣接の森の中に踏み込んだのだった。
アダンと岩を抱き込んだガジュマルとソテツが複雑に絡まる小さな森の中心は隣家の主人が下生えを刈り込みちょっとした空間になっている。台風ともなると風に煽られた波しぶきが雨のように降り注ぐこの土地は植物には過酷だ。昨年隣の主人が育てていた、島バナナやゴーヤーもことごとくやられ、わが家のパパイヤも全滅した。隣人はそれに懲りたかこのジャングルの中で木を育てていた。それらを守るようにアダンとガジュマルとソテツの樹とが小さな聖堂のような空間を作っているのだ。その中でひらひらと番いの揚羽蝶が舞う。幻想的なー田中一村の絵画のごときー光景が目前に広がって、しばしそれに見とれていた。音の無い森は神秘であり、島のあちこちにある拝所のような霊的な空気に満ちていた。