『深海のyrr』フランク・シェッツィング なんじゃか変な世界同時多発テロな海洋ミステリ

庭の一部が海に接している我が家から見える光景は海である。朝から晩まで海。なので海系の物語はつい読みたくなる。漫画でも『万祝』や『One Piece』や『海獣の子供』などはつい「海モノ」というキーワードだけで買ってしまった。

さて、島生活に戻ってから、色々本読んでいたんで書評書くのが溜まり過ぎるくらい溜まってしまいましたよ。ノンジャンルで乱読。ノーベル賞作家のからミステリ、漫画まで色々、横浜で買って忙しくて読めなかったのを島で落ち着いた時に読もうと積読だったのを読んでましたです。
そのうちの一つがこれ↓

深海のYrr 〈上〉  (ハヤカワ文庫 NV シ 25-1)

深海のYrr 〈上〉 (ハヤカワ文庫 NV シ 25-1)

本屋さんで『深海の・・・』とかかれたタイトルで積読で尚且つ「すげー売れてますよ」的に紹介されていたので、帯にある「ダ・ヴィンチコード云々」に嫌〜な直感がしたものの、娯楽としては面白いかな?と手に取ってしまった。

先月に読了。
なんじゃこりゃ?というのが正直な感想であった。

まぁUMAの話である。深海にUMAがいてそいつがまぁ人類に災厄をもたらすというお話。海が人類にしかけた世界同時多発テロ
あらすじとしてはそういうありがちなお話です。物語の作り方はこれまたよくありがちなハリウッド的な展開で、映画化を目指しているのが見え見えっぽいのはともかくそれなりにエンターティメントとしては読める。シベリア鉄道など長時間缶詰め状態になった時の娯楽に読むには最適かもしれない。内省する必要がないというかシベリア鉄道ジョージ・オーウェル読んでたら落ち込んだもんな。といってもテンポがいいのでシベリア鉄道だったら二日で読み終えてしまいそうだ。後の五日間をどうする?

北海で謎のゴカイが海底で大量発生しているのが見つかる。海洋学者の調査によって次世代燃料として期待されるメタンハイドレートを食い尽くす新種のゴカイであることが判明。他方カナダ沿岸で次々と小型船がクジラやシャチの群れに襲われる事件が発生。フランスでは謎の感染ウイルスがロブスターによってもたらされ、深刻な事態に。世界同時多発災厄には実は一貫した原因があった!ってな話。

海が身近な私としてはこれでもかというぐらい過去の海洋怖い系話が盛りだくさん。海から恐ろしいクトゥルーなものがやって来そうな気分に襲われそうであるが、ラブクラフトには及ばないというか、『アビス』とか『コンタクト』とか、なんだかなぁなハリウッド映画系にインスパイヤされたような(小説でもその名前が出てくる)そういうレベルなので怖くない。この物語で怖いのはどっちかというと「アメリカ」だったりするからな。

とにかくかなり長い長編小説で、ここまで引っ張っているが最後はどうなるんだ?という疑問があったが結局食卓を力押しでひっくり返すようなラストで読了後虚脱した。郵便ポストが赤いのもアメリカ軍が・・みたいな。それってどうよ?

この小説、丁度巡回してるブログのkimucoさんが同じ時期に読んでいらして、その感想がかなりツボ。同じように感じてたんですね。
○In bethu ingine
http://d.hatena.ne.jp/kimuco/20090331/1238464337
■[本]イールこえぇ

お話が最終的に「アメリカ至上主義者怖いよという流れ」とあるのがツボ。しかしこの著者、そういうマッチョなアメリカ的なるものに懐疑的な癖にハリウッド?な印象があるのと、彼にとってはアジアはマジ遠いんだなという感想。すごくどうでもいい位置にかかれていて、まぁ仕方ないんだけど、海洋国である日本が取り上げられてないとかは置いておいて、海が不可欠なインドネシアとかポリネシアミクロネシア島嶼国家とか、そういうところの描写がほとんどないなーと。

で、海洋環境について興味がある著者としては次世代燃料としてのメタンハイドレート開発に一定の疑問を投げ掛けたかったのかも。

陸上資源のない日本では海洋深層に眠る資源は期待されている。
以下はそうした動きが現実化しそうな記事や報告書

▼ニッポンは資源大国だった「燃える氷」2018年度に商業化
http://www.j-cast.com/2009/02/14035836.html
「ニッポンは資源国だった」――そんな夢のような話が現実に向けて動き始めた。使わなくなった携帯電話やパソコンから採れる「廃品回収」のことではない。海底深く眠る本格的な海洋資源だ。経済産業省がまとめた「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画(案)」によると、次世代エネルギーとして期待され、日本近海に大量に埋蔵されているとされるメタンハイドレートを、2018年度までに商業化するという。
(以下略)

▼世界初、ついに表層メタンハイドレートからガスを解離・回収する実験に成功 - GIGAZINE
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20090306_methane_hydrate/

以上はメタンハイドレートに関する記事。着々と実現化に向けて動いている。
日本近海は大量のメタンハイドレートが眠っている。世界でも有数の埋蔵量を誇る。まるで日本がアラブのような富豪国家になるかもしれないよなこのニュースは不景気に喘ぐ日本人の心につい心地よく響くが、懐疑的なわたくしは少し悪い事も考えたくなってしまいます。yrrの作者さんも同じように悪いこと考えたくなってるんでしょうか?

▼Science&Technology Trends October 2007 feature article 02

http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/stfc/stt079j/0710_03_featurearticles/0710fa02/200710_fa02.html
希少金属資源に関する我が国の採るべき方策
5.レアメタル資源としての海底鉱物のポテンシャル(特に熱水鉱床への注目)

メタンハイドレートだけではなく、日本近海にはレアメタル等の資源が豊富だそうです。そのうちの一つに熱水鉱床というものがあり、これは琉球トラフに多く見られる。伊平屋島近海などにあるようでそれってうちの島の真ん前。島の海底に貴重なものが大量にある模様。中国様が琉球近海に色気を見せるのはガス田だけではないのかもしれない。因みにメタンハイドレート琉球近海にあります。

既存の化石燃料、石油を巡って世界情勢が危うい。燃料を握られている為に色々衝突が起きているなど、色々あるがこれにメタンが加わり、主流がそっちになっていった世界でのパワーバランスはどうなるか?ってSF話の方が怖そうです。日本の資源を狙う大国が・・・とか、日本がアラブ富豪化してトンでもない存在になるとか、石油が売れなくなったアラブ諸国がより不安定になってしまう(ナウル化)とか、なにか別の不都合が起きそうでもあります。

もしかしたらyrrの作者さんはメタンハイドレート反対派?そのバックには石油メジャーが・・以下略

ところでメタンハイドレートという単語をはじめて聞いたのは、カナダ在住の親戚のおじさんからです。まだメタンハイドレートという存在が世にあまり知られていなかったころに聞いたんですね。イギリス人と日本人の混血の彼は、風貌がほとんどアングロサクソン。日本人なのに外人扱いされる日本よりは居心地がいいのか、とにかくカナダに移住してしまったのですが、そこでナニやってるんですか?と聞いたら、メタンハイドレートの研究だよ。実現化に向けて研究しているんだ。日本にも沢山あるんだよ。などと色々教えてくれた。
丁度この小説はそういうカナダの話も出てきて、あのおじさんどうしてるのかなぁ?などと懐かしくなった。この小説を読んでいたら感想を聞きたいと思う。